色彩の幕=ヴェールが下りているようにみえる絵画のこと。特にポスト・ペインタリー・アブストラクションの画家モーリス・ルイスによる一連のそうした作品のこと。1954年、発色のよい絵の具をカンヴァス上にたっぷりと流し、これをカンヴァスの向きを巧みに変えながら広げてゆくという独特の手法によって、ルイスは「ヴェール」シリーズの制作を開始する。これは偶発的にできた形を強調したアンフォルメルふうのもので、当然ミシェル・タピエの支持を得たが、ルイス自身は不満だったのかやがてその制作を止めてしまう。そして58年、それはより洗練されたシリーズとして再開される。新しい「ヴェール」は、色相のはっきり異なる鮮やかな色を何色も、画面の下にゆくにつれてわずかにしぼった、幅の広いストライプ状に流したあと、半透明の暗褐色を上からそのストライプ全体にかけたものだった。そこではステイニング技法の効果もあって、色彩によるイリュージョンとカンヴァス=支持体は完全に一体化する。そしてこちらの「ヴェール」はクレメント・グリーンバーグやマイケル・フリードに支持されることになる。その重層的な色面が発する、独特の捉えがたい空間は、フォーマリズムの絵画のひとつの到達点とされたのである。
(林卓行)
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