DNP Museum Information Japan - artscape
Museum Information Japan
Exhibition Information Japan
Recommendations
Exhibition Reviews
HOME
Recommendations
O JUN「近作展」「ぺかぺか童子―上下と水平―」
木ノ下智恵子[神戸アートビレッジセンター]
 
札幌/吉崎元章
埼玉/梅津 元
神戸/木ノ下智恵子
福岡/川浪千鶴


「O JUN」……この国籍不明な名前と共に独自の画風が、以前より私の心と頭の襞に引っかかっていた。
 一見するとモチーフをデザイン的に処理した描画部分とそれ以外の余白の関係が、主観的な絵画表現とは異なる客観的な視点による、ある種のシンボルマークや現代版象形文字のように見える。受け手は作品にいとも容易く迎え入れられたことに油断していると、靴下、ブリーフ、校章、家、人など、我々が日常的に認知している事物として具象的に描かれているモチーフは、ユーモラスでありながらじんわりと毒のあるおぞましさを想起させ、どこか奇妙で釈然としない距離間を感じさせる。その距離感を縮めようと、紙にグアッシュ、クレヨン、鉛筆、水彩、サインペンといったチープな画材による線や点による輪郭と面で構成されたうすっぺらくはりついた画面を熟視すると、透過度のある表皮の下の血潮や細胞のような重層構造と同様の奥行きに気付く。精神性もなく無機質でありながら触覚的な身体性を帯びた相反するそのイメージは、我々に単純明快に処理できない感情と感覚を及ぼし、モチーフとのつかず離れずの微妙な関係を誘導する。
 こうした独自の作風が我々を惹きつけてやまないのは、古代から現代まで衰退することなく芸術表現として君臨し続けている絵画/タブローという亜流のメディアを扱うことに対する、O JUNの「描きの半歩手前、画家はどのように在りうるか」という自問自答の末に会得した描くことの哲学「3次元で捉えた事物を平に歪める作業」が根幹にあるからだろう。ここに至るまでO JUNはパフォーマンス、オブジェ、写真など様々な試行錯誤と実験的な試みによって、自らの創造行為の衝動と向き合ってきた。眼が支配しつつ手は技巧によって奉仕してモノを描く、画家の身体性やモチーフとの関係に埋没することなく、ある種の法則を課しながら綿密に画面を構築する。その洗練された画風からは想像し得ないストイックな態度がそこにある。
 また、O JUNはこの絵画表現の一方で、荒唐無稽な物語りやニュースで流れる事件に対する寄稿文、自叙伝的なエッセーなど様々な文章スタイルによる表現も披露してきた。彼にとって絵を描くことと文章を書くことは表現の両輪であるが作品の解説や動機などの単純な相互補完関係にあるのではない。
 この二つの“かくこと”をつなぐものは、展覧会タイトルとして『性的人々』『彼女の軍隊ー小児の夢の仔』『花・TV・コップ』『感情教育』『ぺかぺか童子』などの独自の語意を弾きだす思考回路にある。更にその回路を分析する為の、あるいは絵と文章の切実な関係を理解する鍵として、一定の事柄を指し示すために用いる知覚の対象物としての「言語や文字」の記号学的な成り立ちを参照すれば納得がいく。
 古代、人が記号的なコミュニケーションツールとして描き印した絵から発展させた文字。そしてその文字 によってあらゆる事物に意味を与えて言語を創造し、更には文法というある種の法則によってすべてを情報化する。この複雑かつ根元的な絵と文字の構造は、O JUNにとっての“二つのかくこと”の関係性と類似していると言っても過言ではあるまい。彼は無意識的に自身の関心事項を絵画という個人領域と言語という公共領域を往来しながら表現へと還元すると共に、意識と事物、主観と客観との間に成立する関係の体現を試みている。そして我々は「あらゆる思考は記号である。」という哲学者C・S・パースの言葉を手がかりに、O JUNが創り出す、出入口は明快だがその間は謎に包まれているブラックホールをさまよい続ける。

国際美術館展示風景1 国際美術館展示風景2
「君の意匠」 「君の意匠」部分
上段:国立国際美術館での展示風景 下段:「君の意匠」(国立国際美術館) 
ONギャラリー 上下と水平
左:ONギャラリーでの展示風景 右:「上下と水平」(ONギャラリ)

会期と内容 O JUN近作展
会場:大阪/国立国際美術館 http://www.nmao.go.jp/
大阪市吹田市千里万博公園10-4 ハローダイヤル 0570-008886
会期:2002・2/14(木)〜3/26(火)
「ぺかぺか童子ー上下と水平ー」
会場:大阪/ONギャラリー 大阪市東淀川区淡路5-8-23-101
会期:2002・2/14(木)〜3/26(火)
(「ぺかぺか童子─動産と不動産─」
3/8(金)〜4/6(土)
東京/ミズマアートギャラリー http://mizuma-art.co.jp/ でも開催)

学芸員レポート


 4月から新年度がスタートし、私は引っ越し荷物の空かずのダンボールの存在を黙殺しながら当年度事業の準備に追われている。
 そんな中、春の幕開けを待ちわびたかのように、いくつかの新しいアートスペースが関西にオープンした。一つは言わずとしれた兵庫県立美術館「芸術の館」だ。1971年10月、兵庫県立近代美術館は県政100年記念事業の一環として建築家/村野藤吾氏の基本設計によって誕生し、ルノワール、小磯良平をはじめとする国内外の近代美術はもとより、80年代の現代美術の潮流を築いた『アート・ナウ』など、20世紀の美術の動向を伝えてきた。2002年4月、文化面における震災復興の象徴として新生・兵庫県立美術館「芸術の館」が神戸東部新都心(HAT神戸)に開館した。建築家は安藤忠雄氏、総事業費300億円、地上4階、地下1階建て、全国2番目の延べ床面積、阪神淡路大震災級の地震がおきてもコップの水もこぼれない免震機能、7.2Mの天井高の展示室やアトリエ、修復室etc……。これぞ正に【美の殿堂】と呼ぶにふさわしい面構えの顔見せは、日本における120 年の美術館史を作品や資料など約250点でたどる『美術館の夢』で幕を開け、人々は開館式典、開会式展、一般オープンなど幾重にも繰り広げられるセレモニーでその誕生を歓迎した。建築家の為の美術館か美術作品の為の建築か、、、コトが大がかりなだけに様々な物議はあるが、既にそこにある事実は変えようがない。初めは見かけの云々が優先されるだろうが美術館としての評価は中身=使い方で変化するだろう。私ならさしずめ無理してローンで購入した高価な鍋を使いこなせないままもてあましてしまいそうだが、ここは名コックが集う場。今後の展開に期待したい!
 一方、横綱級の大舞台ではないが、アートの生態系には欠かせないギャラリーが3つもオープンした。大阪の老舗画廊が軒を連ねる老松通りの「ギャラリー千」は、2月に惜しまれつつ閉廊した「ギャラリー白」に携わっていた人物による新展開だ。大阪/天満橋の「TWINSPACE」は、「日下画廊」のリニューアルの際に新たな視点をと、プロジェクト形式の作家活動を経てギャラリストへと転身した手腕に委ねた名実共に若いギャラリーだ。京都/烏丸御池の「mori yu ギャラリー」は、美大生を対象とした貸しギャラリーが多い京都では珍しいコマーシャルギャラリーだ。
 不景気のあおりを受けて閉廊や縮小を余儀なくされるアート劣性なご時世に、新スペースのオープンというニュースを聞くとなんだがホッとする。また、商いの街/大阪での本格的な2つのアートフェアの開催(4/25〜「CASO」、4/26〜「SUMISO」)や、芸術文化環境に優しい街/京都での2大アートイベント、サブカルチャーの金字塔「ペヨトル工房」の西部講堂でのファイナルイベント(5/11.12)とギャラリー巡りのビギナーを誘発する『KYOTO ART MAP』(5/16〜)など嬉しいニュースが満載だ!関西地区で「同じ窯の飯を食う仲間」とでも言おうか、この厳しい芸術環境の運命共同体と言おうか、、、。 
 新年度のスタートと共に届いた吉報を心の糧に!?それぞれの役目を全うして環境整備に励みたいものだ

兵庫県立美術館アトリエ 兵庫県立美術館展示室
芸術館の夢 芸術の館外観
上左:兵庫県立美術館アトリエ
下左:『美術館の夢』エントランス
上右:兵庫県立美術館・展示室
下右:兵庫県立美術館芸術の館・外観

1)兵庫県立美術館「芸術の館」http://www.senri-i.or.jp/museum/jhyogo.html
  神戸市中央区脇浜海岸1-1-1 078-262-0901
2)ギャラリー千 大阪市北区西天満4-8-3 06-6364-2011
3)TWINSPACE  大阪市北区天満4-1-2中之島ハイツガーデン1F 06-6352-6903
4) mori yu ギャラリー 京都市中央区室町通御池上る御池之町311 075-212-4465
5)『ART in CASO 2002 Portal』http://www.artincaso.com
6)『OSAKA ART FAIR,2002 StART』06-4390-5551
7)ペヨトル・ファイナル・イベント『memoryメモリー』http://www.2minus.com/final/index.html
8)『KYOTO ART MAP』http://www.voicegallery.org/kam/kam.html

[きのした ちえこ]



ArtShopArchivesArt LinksArt Words
prev up next
E-mail: nmp@icc.dnp.co.jp
DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. 2002
アートスケープ/artscape は、大日本印刷株式会社の登録商標です。