![]() |
||||||||||
|
![]() |
第2回福岡トリエンナーレ「語る手、結ぶ手」
川浪千鶴[福岡県立美術館] |
|||||||||||||||||||||
|
自分の顔を印刷したお札で鶴を折る、柳幸典の「大東亜仮想通貨千羽鶴」や、タイの政治史が彫りこまれた机の上でフロッタージュするスッティー・クッナーウィチャーヤノン(タイ)の「歴史の授業」など、自然な観衆参加を促す作品も好評だ。
●学芸員レポート 4月22日(月)、2003年秋開館予定の山口情報芸術センター/プレ・イベントであるきむらとしろうじんじんさんの「野点・焼立器飲茶美味窯付移動車」に、福岡から詩人の中村淳子さんと一緒に参加した。心配した天気もまずまずで、女二人しゃべり続けながら、一路山口へ。 私たちはのんきに昼前に山口駅に到着したが、駅に出迎えてくれた同センターの江口よしこさんの開口一番の話を聞いて、う~む…。 市長選にセンター反対派の候補が出たことは耳にしていたが、センター批判の新聞一面広告など巻き返しの選挙運動が効いて当選し、まさにこの日の午前中の新市長会見で、基本骨組まで進んだ工事を3ヶ月間中断し、その間に見直しを行うという発言がでたとのことだった。基本方針の見直し、スペースの貸し出し、自主企画事業の削減などが余儀なくされる可能性もあるとか…。 資料によると図書館併合施設である同センターは、「『であう』『はぐくむ』『かたちづくる』のコンセプトのもとに、『人と人』『人と情報』『情報と情報』が相互につながり、広がっていく社会のための、新しい形の文化コミュニケーションセンター」とあり、「最新のテクノロジーとユニークなアイデアで、いままでの枠にとらわれない新しいコミュニケーションのあり方を考える」という基本姿勢をもっているが、ここでいう情報やコミュニケーションといった言葉が実際に何を意味するのかよくわからない、という意見には私もうなずくところがある。 その一方で、すでに実動している現場に「すべての市民に利用できる施設への見直し」が行われることで、総花的な、本当にわけのわからない、単なる箱としての「センター」への退行にならないことを祈りたい気持ちにもなった。 基本方針とともに批判の対象になっているのが、維持費の問題(毎年7億かかる)だが、磯崎新設計によるガラス張り構造もその要因かもしれない。これもあれも、なんだか、せんだいメディアテークを思い出させる。 波状の屋根が特徴的な骨組みは、まるで巨大なジェットコースターをみるようだった。(だからアップダウンが付き物、という落ちはありません) 現在同センタースタッフは、回りの雑音に振り回されることなく、目の前のイベントに全神経を注ぐ意気込みとのこと。その現場のひとつの「野点」は、応募してきたボランティアさんらの素人運営とはいえ、ほのぼのした良い雰囲気で、順調な滑り出し(野点はこの日が2回目)のように見受けられた。 昨年は福岡市でも開催された「野点」だが、今回は山口の町の規模や人々の落ち着き、自然環境の美しさが生きていて、特に親密な雰囲気を醸し出していた。 この日の会場の白藤邸は、来月にはゲンジホタルも楽しめるという美しい流れの一の坂川沿いにある個人のお宅。野点初日に商店街でたまたまじんじんさんをみかけたおじさん、おばさんたちが、親しげに再び立ち寄る様子を見て、これこそが「野点」の醍醐味だと感じた。じんじんさんが山口のために新調したドレス(迷彩柄のマーメイドドレス、腰に「武装ではなく女装」の刺繍入り)のお披露目も今後の楽しみのひとつ。 藤幡正樹さんの「Off-Sense」展も、『Off-Sense』、『Beyond Pages』、『Small Fish』といった代表作品がそろった充実した個展。特に「人」と「人工知能」の日常会話に大勢で参加できる『Off-Sense』は、ケーブルテレビ(山口ケーブルビジョン)に24時間リアルタイムでサイバースペースの模様が中継されているという驚きの作品で、ケーブルテレビ加入世帯数が80パーセントを越える山口市のために企画された、世界初の試みとのこと。人工知能との会話にはまり、うれしそうに毎週末通ってくる9歳児の常連もすでにいると聞いた。 高齢者も多い山口市における新たな文化施設をめぐる問題が、箱ものに振り回されるだけでなく、こうしたプレイベントの成果や参加市民の意見を受け止めつつ見直しされることを願いたい。
[かわなみ ちづる] |
|
|||
|
|||
|