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横尾忠則「森羅万象」/中村一美展
南 雄介[東京都現代美術館]
 
東京/南 雄介
埼玉/梅津 元
倉敷/柳沢秀行
高松/毛利義嗣


横尾忠則「森羅万象」展
 何回かお休みさせていただいたので気になって見てみたら、前回の掲載が6月1日の号であった。なんと4ヶ月ぶりになってしまうではないか。私の場合、自分の担当している展覧会の直前2、3ヶ月は、展覧会のことでほとんど頭が一杯になり、世捨て人のように世間から切り離された生活を送ることになってしまう。展覧会が開いてしばらくすると、徐々に社会生活に復帰して、たとえば書類や資料が山となった机の上を片付けたり、街の展覧会に出かけたりする余裕が出てくる。だが今回は、担当の「横尾忠則 森羅万象」展が開いて一月もしないうちに、常設展示の展示替えが待ち構えていた。そのため、まだ「社会復帰」ができていなくて……。まあ、言い訳も大概にしておこう。
横尾忠則 さて、まずはその「横尾忠則 森羅万象」展を宣伝しておかねば。言わずと知れた天才・横尾忠則の最大の回顧展で、64年の作品から展覧会オープンの当日に作者が手ずから持ち込んだ最新作まで、大作絵画を中心に375点。これだけの作品が一堂に揃ったことはない。おそらく作者も、これだけの作品が一挙に並ぶのを見たことはなかったのではないか。集積を通じて見えてくる世界は、おそらく誰にとっても想像や予断を超えたものだと思う。年令や性別を超えて、ここまで幅広く、そして数多くの人々に訴え、心を動かすアーティストはいない。そのあたりの事情は、若桑みどりさんがカタログに寄せて下さった素晴らしいテキストが解きあかしてくれている。現場からの発言ということで、展示をしているときに気がついたことを一つだけ記しておくと、色彩の美しさ、その澄んだ透明感となんとも言えないバランスの良さである。横尾忠則の絵画は、一見すると派手なので、色数をたくさん使っているように見える。だが実際は、意外なほど少ない色しか使われていない(たいがいは3色くらいで描くそうである)。そのためなのかどうか、一枚一枚の画面に色調の統一感があり、数多く並べても美しい調和を生み出してくれる。10月にはいるとトークショーがいろいろと企画されているのでお楽しみに。
 仕事の周辺からもう一つ、常設展示について触れておこう。私のいる東京都現代美術館では、3800点くらいの所蔵品を持っていて、その中から常時120-200点くらいを常設展示で紹介している。年間に2回、2-3週間休室をする大きな展示替えをして、間に2回、休館日のみの小さな展示替えをする。常設展示が企画展と違っているのは、あたりまえだが基本的にコレクションを並べていると言うことである。企画展で借常設展用しお預かりする作品は、その企画展の期間内しか手許にないが、常設展示で扱う作品は、つねに美術館の中にある。そのため、作品と時間をかけた付き合いができるわけだ。一人の作家は多様な側面を持っており、一つの作品も多様な側面を持っている。そして、同じ作品でも、どの作品と並べるか、どの位置に展示するかによって、異なった意味や印象を生じる。常設展示で並べるときは、展示替えによって展示の構成を変化させていくことによって、その膨らみと広がりを、時間をかけて試したり確かめたりすることができる。同じ作品が並んでいるように見えても、実はそこにはつねに新しい発見があるのだ。
 かつて私は、95年3月の開館から3年前の99年まで、常設展示をほぼ毎回、担当してきたが、異動になってしばらく外れていた。それが今年4月からひさしぶりにこの仕事に復帰したので、ほかの担当者とも相談し、今度の大きな展示替えで構成をかなり大幅に変えてみることにしたのだった。今回の特徴は、一つには作品をたくさん出したこと。240点というのは今までで一番多いかもしれない。そして上のフロアでは、5つの展示室を、サム・フランシス、諏訪直樹、中西夏之、デイヴィッド・ホックニー、宮島達男という5人の作家の、それぞれ個展のようにしつらえている。このうち中西夏之は、前回のこのコーナーで紹介した名古屋市美術館の常設企画展をそのまま再現したもの。作家の中西夏之さんと名古屋市美術館のご協力で可能となった。1階の戦後から1970年代までの歴史的展開をたどった展示も、ちょっとした修正をほどこしてみたので、ちょっと違うイメージになったのではないかなと思う

 自分の美術館のことばかりになってしまった。ですが、もう一つの展覧会「QUOBO: ベルリンのアート 壁崩壊から10年」(〜11月24日まで)も始まったのでぜひお出かけください。ちょっとひとひねりしたインスタレーションが中心で、ぜんぜんテイストは違うけれどもこれも楽しい展覧会だ。とてもくつろげる、気持ちのいい空間になっている。ビリヤードもあるよ。

会期と内容
会期:
横尾忠則「森羅万象」2002年8月10日(土)〜10月27日(日)
「QUOBO: ベルリンのアート 壁崩壊から10年」 9月21日(土)〜11月24日(日)
常設展示「日本の美術、世界の美術――この50年の歩み」
会場:いずれも東京都現代美術館 東京都江東区三好4-1-1都立木場公園内 tel.03-5245-4111
休館日:
月曜日(ただし祝日の場合は翌火曜日が休館)
URL http://www.mot-art-museum.jp/

中村一美 Painting
中村一美
 さて、やはり前回の6月1日号で南天子画廊の個展を紹介した中村一美であるが、大規模な個展がいわき市立美術館で始まっている。軽井沢のセゾン現代美術館(1999年)に続いて2回目の美術館での個展になる。残念ながらオープニングに出席できなくてまだ見ていないのだが、学生時代の作品から最新作まで、立体作品を含む50点からなるラインナップで、見た人の話ではとても美しい、いい展覧会になっているということだ。見に行くのを楽しみにしている。





会期と内容
会期:2002年9月8日(日)〜10月27日(日)
会場:いわき市立美術館 いわき市平字堂根町4−4 tel.0246-25-1111
休館日:
月曜日(ただし祝日の場合は翌火曜日が休館)

[みなみ ゆうすけ]

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