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「ニュータウン アートタウン」
「チルドレンズ・アート・ミュージアム」

柳沢秀行[大原美術館]
 
東京/南 雄介
埼玉/梅津 元
倉敷/柳沢秀行
高松/毛利義嗣

『ニュータウン アートタウン』

 山陽団地は、岡山市中心市街地から車で40分ほどの場所にあり、山林を切り開いて造成された岡山県内最大の「ニュータウン」。1970年前後、日本各地に新造されたニュータウン=ベッドタウンの典型的なひとつである。
 ここを舞台にした『ニュータウン アートタウン』展は、20歳代後半から30歳代のアーティストを中心に企画・実施された。
 作品もバラエティに富み、それなりに場のありようをふまえたものも多い。ワークショップなどの各種企画もあり、地域在住の方との関わりも配慮され、また外来者にとっての重要なインフォメーションであるチラシやマップも手際良くまとめられている。よく頑張って出来ている展覧会である。
 
 ただ何か食い足らない。
 
 当然それは、1ヶ月近い期間のトータルなパフォーマンスを、わずか半日ほどで垣間見たからのことでもあろう。
 逆に言えば、こうした企画から大きな意味を引き出しうるのは、外来者以上に、そこに住まう人々であろうし、それゆえ企画者やアーティストが、そちらこそを重要な観客と位置づけてパフォーマンスを行うのは当然のことであろう。
 もっとも、チラシには「本展は、この居住空間の中で、いかに美術が街と関係を持ち、いかに作品を生み出すことができるかに挑戦する試みです。」とある。
 この文面からすれば、この企画は美術の側の自己実現が優先され、「ニュータウン」は作品制作の契機であり、素材にとどまることとなる。
 もちろんそれでも、街のありように対する認識や解釈は作品には反映されるだろう。ただ、その認識や解釈を、街に暮らす人々にも問いかけようとする姿勢、ひいては企画全体を通じて、会場となった山陽団地(の人々)に何をどのような形で残すのかということに対するイマジネーションを、言い方を変えれば、自分たちのパフォーマンスが、確信犯的に、なにかしらのインパクトをその場に与えて行こうとする覚悟とでも言おうか、そういったニュアンスを、この文面から感じ取ることはできない。
 このような、場(街)と自分たちのパフォーマンス(作品)との関わりについての腰の座りの悪さが、先述の食い足りなさを生むひとつの要因であろう。
 それから、またやはり展覧会チラシになるが、「ニュータウン」の特徴について、30年を経て「古い街」に姿を変えつつあること、そして別名「ベッドタウン」と呼ばれるように、もっぱら居住空間あることの二つを指摘しているのみである。
 ニュータウン=ベッドタウンをめぐっては、まだまだ考察すべき特
徴はあるはずだ。
Are You Meanig Company
PHスタジオ
足王神社
足王神社の石製のオブジェ
上から
Are You Meanig Company 
PHスタジオ 
足王神社 
足王神社の石製のオブジェ 
 実際に、出品作家グループAre You Meaning Companyによる、彩色された簾を街の家々の窓に掛けようとする提案型の作品は、住宅群の景観という点からこの場を観察し、想像力を喚起するユニークなものである。またPHスタジオは、いつもながらの簡潔、洗練された手際で、建築物の工法という観点から作品を成立させている。それに岡田毅志は、あくまで「絵描きである自分」の身体というリアリティーに依拠して、特に人々との交流を焦点に団地のありようをつむぎ出すことで十分な成果を挙げていると思う。
 このように作品のいくつかは、場のありようを、それぞれの観点や資質に応じて的確に作品化しており、それだけに対象に対する立派な批評ともなっている。
 なにもアートが、街に対する新たな認識を掘り起こしたり喚起したり、あるいは現実的な状況改善に奉仕するツールであることに専心せよとは言わない。
 しかしこうした個々の作品での達成はありながらも、展覧会をトータルで見た場合、与えられた場(街)に対する洞察があまり深みに達していないことも、食い足らなさを生む要因でもあろう。
 
 さて、以前こうした団地に住む50歳代の男性からうかがった話である。入居した頃は、みな若く、子供も小さく、地域を上げての運動会やお祭なども頻繁に催され大変活気があったそうだ。
 ところが住民の入れ替えがあまり無いまま、世帯主は高齢化し、成長した子供たちはニュータウンを去る中で、過疎とまでは言わないが、地域全体がどんどんと停滞していったということである。
 活字からは知っていた情報ではあるが、実際の住民の現実感を伴った言葉である。僕は今回の展覧会=山陽ニュータウンを、この言葉とともにめぐっていた。
 さすがに規模の大きな街ゆえ、平日の学校は子供の声が響いていた。それに同じような姿をし、同じように老朽化した均一な街並みの中に、結構な数で建て替えたばかりであろう新築の家を目にした。相応に新陳代謝は果たされているらしい。
 もっとも各所に設けられた公園は近年人が踏み入った気配すらなく、また各戸のスペースが手狭な小形の集合住宅では、さすがに空室が目立っていた。
 もっとも、それらの場所が醸し出す、かつて人々の息吹が満ちていたことのリアリィテーと、打ち捨てられたような荒廃感とが、深いギャップを抱えながらも同居している存在感は重厚とすら言えるものだった。
 こうした空き部屋のいくつかは展示に使用さえていたが、部屋をそのまま公開するだけで作品になるかと思うほどの十分なニュアンスをたたえていて、いずれの作品(=部屋)も相応の見応えがあった。
 一方、屋外作品となると、PHスタジオ以外には、ニュータウンの必須アイテムでもある公園や備蓄タンクなどを舞台にした作品が全くなかったことが、展覧会全体のインパクトの弱さにつながるであろう。
 この団地のありようの推移を思い、公園の遊具など30年の時を具現化しているオブジェ達の強度を目にすればするだけ、今回の作品たちの焦点の絞れなさをいささか残念に思った。
 しかし、たった半日程度めぐっただけではあるが、まったく違った面から、このニュータウンのありようを、強く考えさせられた場(オブジェ)について最後にふれておきたい。
 それは、ほんとうに箱型の集合団地の傍らにあるというのがぴったりな、足王神社の存在であり、その鳥居の手前に置かれた、ふたつの石製の足のオブジェである。
 最初にこのオブジェを見た時、その発想の斬新さや、鳥居に狛犬の景観を見事に押さえたキッチュな造形に、てっきり今展の出品作と思い、なんて素晴らしい作品を生み出した、素晴らしい展覧会なんだと、にんまりしてしまった。
 しかし、足の切断面(?)をみると、そこには象嵌白文字でしっかりと奉納者の名前が……。
 そしてこの神社は今なお信仰が生きており、ちょうど折り良く地元のお婆さんが手押し車を杖代わりに、もう自力では階段を登れないらしく、階段の下まで来て、安らかな顔で社殿に向かい頭を下げている。
 階段をあがるといくつもの義足が奉納してあり、その中のひとつに、幼児のそれを見出した時は、その子と家族のことを思わずにはいられなかった。
 ニュータウンは、実は何も無い原野を切り開いて忽然と姿を現したのではなく、もともとそこには人々の暮らしがあったこと、そしてその暮らしはニュータウンの30年の推移をものともせずに、たんたんと存在しつづけていること。そして人々の生きることに深く関わる造形がこうして、そこにあること。
 どうか若きアーティスト達が、このことを受け止めて、そして今回以上に、もっともっと意義あるパフォーマンスを示していって欲しいと思う。

会期と内容
会期:9月8日(日)〜9月22日(日)
会場:岡山県山陽町 山陽団地一帯
出品作家:Are You Meaning Company、上山朋子、江崎洋子、岡田毅志、河原田陽子、国谷隆志、島村敏明、鷹取雅一、谷本雄太、中村智道、ノーヴァヤ・リューストラ(中野良寿、安原雅之、横湯久美)、PHスタジオ、平田さち、本田孝義、松原妙子、松本恭吾、真部剛一
イベント:
●「みかんぐみ」の団地再生計画〜県営住宅を「変える」ワークショップ〜
新進建築家グループによる県営団地をより快適なものとするためのワークショップ
●廣畑一男さんと絵を描こう!〜歴史を振り返る〜
美術教員である、ニュータウン内の小学校の初代校長先生を迎えて共に絵を描くワークショップ。
●オープンガーデン〜お庭拝見。庭もアートだ!〜
一般家庭の庭を開放
●みんなの夢をフラッグに〜こどもたちによるフラグアート〜
子供向けのワークショップ
主催:同展実行委員会/岡山県教育委員会/岡山県芸術祭実行委員会

チルドレンズ・アート・ミュージアム

 手前味噌ながら、大原美術館の夏の企画
チルドレンズ・アート・ミュージアムについてです。
 二日間で、少なくみても2千人がこの企画のために集まり、合計6千人もの方が、その光景を目撃したことになります。
 館内各所で、計10のワークショップや鑑賞ツアーを用意して、事前予約なしでどんどん参加してもらおうという企画でしたが、あまりの人数にいろんなことを勉強させていただきました。
 まずは「なんでも良いから持ち帰れる物が作れるプログラムはなんですか?」という問い合わせが実に多かったこと。
 そうです、夏休みの宿題をここで済ませようとする親御さんの多かったこと、多かったこと。
 もちろんこちらもそうしたニーズと動員を見込んで、「外からながめる大原美術館」として、画板無料貸出、学校指定サイズの紙を無料プレゼント、あとは絵具など画材だけは持ってきて、というプログラムを用意していましたが、こうした時間と手のかかるものはあまり人気が無く……。
 予想外の一番人気は「私の大原コレクション」。
 小型のスケッチブックに、所蔵作品の絵葉書やシールを貼って自分のオリジナルブックにした後、「作品の手の形だけ」「窓から見える景色」「美術館の中の木の葉っぱ」などのテーマを決めて、自分でそれらを描いてコレクションしてみようというもの。
 事前に用意したスケッチブックは初日の昼でなくなり、後はひたすら近在の画材屋、文房具屋を駆け回ることになりました。岡山市、倉敷市の在庫をほとんど買い集めて、それでも二日目の昼
にはギブアップ。
 しかし、よくよく見ると、これを手にして館内で描いているのは、子供と同じくらいの数の大人。それもお父さんもちらほら。
 
思い知らされました。みなさん、ほんとに美術館の中で絵を描きたいのですね。その気持ち、しかと受け止めました。

 さて、今回の企画は、提供するプログラムに幅を持たせるようにしておきました。
 それはたんに様々なことが体験できるということではなく、いわば道具や場だけをあつらえるだけで、後はそれぞれが腕を動かす楽しみを存分に味わってもらおうといったレベルのものから、丁寧にプログラムを作りこみ、もっと自分という存在、あるいは家族の存在について深く考えたり、あるいは何かに気づいたりするような、いわば、ぐっとはまって目から鱗になるようなレベルのものまでを用意するということです。
 このうち、場だけあつらえ系のプログラムに宿題目的のお客様が殺到してしまったわけですが、一方の気づき認識系もいずれも大人気で、そしてこちらの狙いどおりのお土産を持って帰っていただいたようです。
 この気づき認識系ためには、優秀なファシリテーターを据え、よく練りこんだプログラムを用意しなくてはなりません。
 そのために、今回3つ用意したこの類のプログラムは、いずれも外部から実施にあたるスタッフをお招きしました。
 「ダンスワークショップ 野外彫刻と遊ぼう!」は、岡山大学モダンダンス部卒業生&現役生による特別ユニット「モダンダンスグループ Sound of Body」をお招きして、ロダンやイサムノグチ、速水史郎などの彫刻がならぶ分館前の芝生広場で実施。
 この岡山大モダンダンス部は、優れた作品も生み出しますが、それとともに優れた指導者を輩出する岡山県教育界の宝!とまで、僕は思っています。
 ただこれまでは、それぞれが学校教員として、そのスキルを学校現場で発揮するだけでしたが、今回は卒業生&現役生が20名ほど集まり、参加者とほぼマンツーマンで組みになり、実に素晴らしいワークショップを実施してくだいました。炎天下で1日3ステージの過酷な状況のなかでご苦労様。
 そのテクニックを盗もうと見ていましたが、大まかな組み立てや意図は把握できても、実際に相手を徐々に解きほぐす、その持って行き方は、ちょっとやそっとじゃ出来ない上級編。ほんとに来てもらってよかった。
 我が家の3歳と5歳の子供も参加しましたが、以来我が家では二人一組になって、片方は自分の手足を相手の動かすままにポーズを取り続ける「彫刻になるごっこ」が流行。そして3歳の子供は、会場となった芝生広場を訪れる度に、あの日自分が隠れた彫刻のことや、一緒に遊んでくれたお兄さんの言った言葉を、なんどもなんども教えてくれます。
 残る二つは、「親子でカットアウト」と「野村誠しょうぎ作曲 作品とみんなでつくる ここだけの曲」。
 「親子でカットアウト」は、この紙面でもご紹介したことのある「あとりえ・はらっぱ
」の、ふじわらやすえさんが、地元の中学生たちをアシスタントにして、展示場内で実施。
 ジャクソン・ポロック作『カットアウト』に想を得て、親御さんが、大きな紙に寝転んでポーズを取った子供さんの輪郭を、親御さんが、かたどり、その紙をポロックのように絵具のドリッピングで埋め尽くした後、輪郭線を切り取ります。その外側を美術館の展示場にポロックやサム・フランシスの作品と共に展示し、内側の部分をご自宅に持って帰ってもらおうというプログラム。
 こちらも一日50枚の紙が2日間とも午前中で終了の大人気。ふじわらさんは、殺到するお客様を中学生たちと共に丁寧に対応しながら、参加者と語らい、的確に、その日その場の出来事をみんなの胸に落としこんでゆくのでした。
 「野村誠しょうぎ作曲 作品とみんなでつくる ここだけの曲」は、ご存知、作曲家で演奏家の野村誠さん達3人が中心になって、参加者と共に、作品の前で将棋を指すように、相手が出す音に合わせて、自分も音を出すことを繰り返しながら曲を作ってゆくプログラム。おまけに最後はレコーディングをして、それをCDにしてプレゼントしようという凝りよう。
 ピカソ、モネ、ロスコ、モディリアーニ、ポロック、それに最後は棟方志功の版画や中国の石仏までを基点にしてプログラムが実施されました。
 もちろん展示場で、小さな子供がガシャガシャぴぃーぴぃー音を出すわけですからクレームが最も多かったのも、このプログラム。
 でも、様々な人たちが大勢集う展示場で、誰にとっても完璧な環境を維持するというのは幻想。そのことを最も端的に、そして最大限に示すためにも、このプログラムは一切自己規制なしで進めてもらいました。
 もちろん参加している方にとっては深い深い体験だったでしょう。それに字もまだうまく書けない小さな子供達が出す音までをも、その子供の存在そのものを受け入れるように、認め、つないで行く野村さん達の作り出す場の意味を、しっかりと理解するお客様も多かったのは、なによりのことです。
 それに野村さん達が、1回終わるごとに丁寧にミーティングを行い、毎回確実にプログラムの精度を高めていくのには、まさにプロと脱帽。

 こうして2日間のエネルギーの炸裂『チルドレンズ・アート・ミュージアム』は終了いたしました。
 これだけ大勢の様々な方がいらしたわけですし、ある意味「通常の美術館のあり方」からすれば挑発的なプログラムもあったわけですから、みんながみんなハッピーで万々歳とはいきません。
 それでもきっと来年もやるでしょう。来年は、もっとすごいのを陣頭指揮とってやります。お楽しみに。
ダンスワークショップ カットアウト 野村しょうぎ作曲 左から
ダンスワークショップ
親子でカットアウト
野村しょうぎ作曲、モネ睡蓮の前で

会期と内容
会期:8月24日(土)、25日(日)
会場:大原美術館 全体


学芸員レポート
 『チルドレンズアートミュージアム』が終わったら休む間もなく、奈良県立美術館での大原コレクション展の撤収。
 そのまま館内の大規模な展示替え。そして10月には大原家別邸の有隣荘を舞台に、福田美蘭さんをお迎えしての『有隣荘・福田美蘭・大原美術館』を実施。これは大原美術館の所蔵品を素材に、そして大原美術館の過去から現在までを主題とする新作ばかりで、有隣荘を埋め尽くすものです。
 またそれに併せて、「女性」「現代」をテーマにした二つのコレクション展と、大原美術館近在の家々が通りに面して屏風などを飾る倉敷屏風祭の復活開催。
 秋の倉敷は楽しみ企画の目白押し。そしてそれまで休みなし。の日常です。
 詳細は、大原美術館公式ホームページhttp://www.ohara.or.jp/
またこのページのトップでアドレスを書き込むだけで参加できる大原美術館サポーターメーリングリストまで。
 メーリングリスト加入者は、特別なお知らせや画像が見られる、秘密の小部屋へのアクセスもできます。見に来てくださいね。

[やなぎさわ ひでゆき]

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