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『アヴァンギャルド芸術』花田清輝

Abangyarudo(Avant-garde) Geijutsu, Kiyoteru Hanada
更新日
2024年03月11日

『アヴァンギャルド芸術』とは、評論家である花田清輝の第五評論集であり、1954年10月に刊行された。この評論集に代表される花田の言説は、花田の組織したグループに集った芸術家や評論家を中心として、50-60年代の芸術・文化において大きな影響を与えた(例えば、収録のエッセイ「林檎に関する一考察」は、針生一郎と武井昭夫の『美術批評』誌上での論争の発端となった)。花田は戦時中より「文化再出発の会」を結成し、その機関誌『文化組織』を刊行することで、戦後の復興期に繋がる新しい芸術・文化運動を進めていた。そして戦後新たに「綜合文化協会」を結成し、機関誌『綜合文化』を刊行する。それに並行して、岡本太郎らと「夜の会」を結成し、戦後アヴァンギャルド芸術の運動を組織してゆく。50年代の芸術・文化においては、現実を捉えるためにサークル詩やルポルタージュ絵画など、さまざまな領域で「記録」が重要な問題として取り上げられていた。そのような背景のなかで花田が掲げたアヴァンギャルド芸術の言説とは、狭義の芸術の範疇にとどまるものではなく、戦前のアヴァンギャルド芸術の国内受容が多くの場合、政治的な側面を欠落させていたことを踏まえ、社会主義リアリズムにアヴァンギャルド芸術の方法論を導入し、既存のリアリズムの硬直を乗り超える新しいリアリズムを追求するものであった。花田の言説とは大衆の組織されていない無形のエネルギーを汲み上げ、芸術・文化の変革運動への展開を目指すものであったといえる。花田の評論対象は大衆文化全般に向けられており、58年には映画を論じた評論集である『映画的思考』を出版している。

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補足情報

参考文献

『アヴァンギャルド芸術』,花田清輝,講談社文芸文庫,1994
『映画的思考』,花田清輝,未来社,1958