『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- Exit Through the Giftshop
- 更新日
- 2024年03月11日
英国のストリート・アーティスト、バンクシーが監督したストリート・アートのドキュメンタリー映画作品。2010年公開(日本公開は2011)。ドキュメンタリー映画の体裁をとっているが、実質的には複雑なプロットと内容になっており、鑑賞者がもつアートやストリート・カルチャーの前提知識の程度によって、さまざまな解釈が誘発されるような仕掛けが施されている。物語としては、つねにヴィデオ・カメラで周囲を撮影していないと落ちつかないという一風変わったフランス人、ティエリー・グエッタが、ストリート・アーティストである従兄弟(スペース・インヴェーダー:Space Invader)の活動を撮影したことをきっかけに、世界中のストリート・アーティストの映像を撮りためていく。ところがバンクシーとの出会いによって、ティエリーはストリート・アートの記録者から、自らがミスター・ブレインウォッシュという名義でアーティスト活動をはじめ、カメラは彼の個展開催までの流れを追うようになる。さまざまなストリート・アーティストを紹介する視点を担った人物そのものが、ひとりのアーティストになってしまうという逆説的展開は、コミュニティ内のローカル・ルールに基づく(したがって外部からは不可視の)匿名的創造力が充満するグラフィティのサブカルチャー空間から、作家性の芽生えたストリート・アーティスト、すなわち固有名的な様態への移行という、グラフィティ/ストリート・アートをめぐる現実の変化、およびそのすぐ横にある美術界との関係性を如実に表わしている。サブカルチャーとファイン・アートというわかりやすい二項対立がもはや無効化されたように見える現在、にもかかわらずいまだどこかで分かたれている両者の関係の複雑さをトリッキーかつアイロニカルに描きだすバンクシーの手法は、グラフィティやストリート・アートを主題にしたこれまでの映画作品とは一線を画している。
補足情報
参考文献
『ユリイカ』2011年8月号,特集=バンクシーとは誰か?,いとうせいこう、ポール・スミスほか,青土社
アゲインスト・リテラシー──グラフィティ文化論,大山エンリコイサム,LIXIL出版,2015