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オラリティー(口頭性)

Orality
更新日
2024年03月11日

声の語りによる表現の性格のことで、文字による表現の性格であるリテラシーと対比される概念。「口頭性」とも訳される。オラリティーの意義を論じる際によく参照されるのは、トロント学派のマーシャル・マクルーハン(『グーテンベルクの銀河系』)とウォルター・オング(『声の文化と文字の文化』)の理論である。彼らは文字以前の文化がオラリティーによって、文字以降の文化がリテラシーによって基礎づけられていると考える。オラリティーの中心にははかなさ、つまり音を主体の外部に留めておけないという性格があり、この性格のために文字以前の文化は現前性を重視し、さらに語りを共有する必要から集団的、保守的、感情移入的だったとされる。西洋ではこうした文化は文字の登場によって次第に変化し、とくに活字の発明はリテラシーにもとづく文化を大きく発展させた。しかし、彼らは電子メディアの出現によって現代文化にはオラリティーの影響が復活していると主張する。電子メディアを通じたオラリティーをオングは「二次的オラリティー」と呼ぶ。これに対して、ジョナサン・スターンは以上のようなメディア観、歴史観の背景にはキリスト教神学があると指摘し、客観的事実に合致しないと批判している。一方で、彼は同じトロント学派でもハロルド・イニスとエドムンド・カーペンターは、文字以前のオラリティーを多感覚的なものとして理解したと評価している。

補足情報

参考文献

『グーテンベルクの銀河系 活字人間の形成』,マーシャル・マクルーハン(森常治訳),みすず書房,1986
『声の文化と文字の文化』,W・J・オング(桜井直文、林正寛、糟谷啓介訳),藤原書店,1991
The Audible Past: Cultural Origins of Sound Reproduction,Jonathan Sterne,Duke University Press,2003
『メディアの文明史:コミュニケーションの傾向性とその循環』,ハロルド・A・イニス(久保秀幹訳),新曜社,1987
Oh,What a Blow That Phantom Gave Me!,Edmund Carpenter,Holt