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音楽の視覚化 

Visualization of Music
更新日
2024年03月11日

本項目では、視覚芸術の方法として、音楽の視覚化──音や音楽を視覚的な記号や図形で表現すること──に言及する。音声を記号や図形として視覚化するテクノロジーは、 音響学の成立(クラドニ図形など)、近代音響記録複製テクノロジーの成立(フォノトグラフなど)、楽譜やDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を経由する音楽制作プロセスなどにとって、技術的前提であり重要なトピックだが本項では言及しない。ある種の絵画は音や音楽を視覚的に表現したものとして解釈される。その多くは、音楽を、徹底的に形式主義的な芸術であるという理由から、直截に絶対的な何かを表現できる媒体として理想化する。そこでは音楽(特に器楽音楽)は、言葉では表現しえないものを表現しうるがゆえに絶対者が開示される「絶対音楽」として理想化される。この「音楽への憧憬」は、20世紀以降、共感覚の保持者だったカンディンスキーによる抽象絵画の発明につながる。音響を聴くことで色を感じたカンディンスキーは、線描や色彩の「リズム」や「ハーモニー」を描く「Composition」としての抽象絵画を生み出した。つまり、ある種の抽象絵画は音を視覚化することで生み出されたのだ(ほかにはクレーなどがいる)。また同時代の「絶対映画」(V・エッゲリング、O・フィッシンガー、H・リヒター)でも、音を視覚化することで映像が制作された。ここでも音楽における形式主義的な側面が強調され、音楽が理想化され視覚化された。ある種の抽象絵画は、「形式主義と内容主義」という対立軸を形式主義的な方向に純化することで、点と線と色彩による自律的構成として登場した。そこでは、「音楽」という表象が、 視覚芸術にとって都合のよいものとして機能した事例を観察できるのである。

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参考文献

『クレーの絵と音楽』 ,ピエール・ブーレーズ(ポール・テヴナン編、笠羽映子訳),筑摩書房,1994
The Hidden Sense: Synesthesia in Art and Science,Cretien van Campen,MIT Press,2010
 『音楽史の基礎概念』 ,カール・ダールハウス(角倉一郎訳),白水社,2010
Wireless Imagination. Sound,Radio,Avant-Garde,Douglas Kahn,Gregory Whitehead eds.,MIT Press,1992
Noise,Water,Meat: A History of Sound in the Arts,Douglas Kahn, MIT Press,1999