鑑識/鑑定
- Connoisseurship
- 更新日
- 2024年03月11日
「鑑識」と「鑑定」は、しばしば混同されるが、厳密に言えばその意味に差異がある。まず、「鑑識」とは、美術作品についての情報をあらゆる専門知識から判別し、真贋を含めた作品の美術品としての評価を判断する行為、またはその識見そのものを指す。さらに、鑑識には強い感受性や審美眼が必要であるとされる。一方、「鑑定」とは、知識を持って作品についての評価を下すという意味では鑑識と同様であるが、金銭的価値を決定することを目的とする行為を指す。以上のように両者には差異があるが、いずれにせよ、歴史的、文献学的に詳細な知識と豊富な美術鑑賞の経験より生ずる優れた直観力、いわゆる鑑識眼が不可欠であることに変りはない。また近年では、材料や技法、または制作過程の分析などのために、X線や赤外線の投射などの科学的技術を要することもあるため、鑑識は高度に専門化されている。この科学的技術を駆使した鑑識によって、美術作品がその評価または解釈に新たな局面を迎えることもしばしばである。例えば、エドゥアール・マネによる《草上の昼食》(1863)はX線による調査の結果、画面左上部に牧歌的な風景が描かれていたことが判明したことで、作品解釈に新たな問題を突きつけることとなった。