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看板建築

Billboard Architecture
更新日
2024年03月11日

「看板建築」とは、建築家・建築史家の藤森照信が命名した、店舗兼住宅の一形式である。その多くは関東大震災後の復興期に突発的に現われた木造2-3階建の建物で、その正面だけを銅板やモルタル、タイル、スレートなどの耐火素材で覆い、装飾した町家のことを言う。建築物でありながら、商屋のファサード自体が屋外広告と化している。このファサードは「看板」という文字通り、一枚のキャンヴァスに見立てられ、民衆の手による表現の場となった。それにより素人から芸術家までの表現の参加を可能にし、アノニマスな庶民住宅、民の芸術が生まれた。この点に注目した藤森が1975年に日本建築学会大会で発表した「看板建築の概念について」は、日本近代におけるいわば「建築家なしの建築」を気づかせた、意義深い発信であった。このように「看板建築」は、伝統的な町家にそれとはまったく違う異物が取り付く構成上のおもしろさがある一方で、異物であるファサードの上には、多種多様で、時に風変わりな装飾が展開されるというおもしろさもある。「看板建築」に様式という言葉を用いるなら、レヴェルの違う二種類の様式が使い分けられている。そして二つの様式レヴェルは、互いにぶつかり混乱しない程度に距離をおいて記述されている。藤森は「看板建築」を、明治期に途絶えたかに見える、擬洋風建築の伏流として捉えていた。一方、村松貞次郎はこれを、民の活力によって生み出された擬洋風建築の再来として捉えず、大正9(1920)年の市街地建築物法の流れを汲む、木造建築の防火策の結果として位置づけられるものだとしている。

補足情報

参考文献

『看板建築』,藤森照信、増田彰久,三省堂,1999
『10+1』No.44,「看板建築考 様式を超えて」,横手義洋,INAX出版,2006
『10+1series 都市表象分析I』,田中純,INAX出版,2000
『看板建築の概念について 近代日本都市・建築史の研究1-1』,藤森照信,日本建築学会,1975
『建築雑誌』Vol.116,「『看板建築』の技術を見て、近年の屋外広告について思うこと」,二村悟,日本建築学会,2001