『芸術としての映画』ルドルフ・アルンハイム
- Film als Kunst(独), Rudolf Arnheim
- 更新日
- 2024年03月11日
1932年にドイツの映画批評家・心理学者のルドルフ・アルンハイムによって書かれた映画理論書の古典。57年には、同書からの抜粋、および30年代に書かれた他のいくつかの文章から成る新版が英語で出版された(いずれも邦訳がある)。アルンハイムの議論の根本的な着想は、映画が芸術でありうるのは、それが現実の機械的な再現にすぎないという状態を乗り超える限りにおいてであるというものだ。言うまでもなく、現実の知覚と、映画に撮られた映像の知覚はまったく異なる。映画では、立体が平面に投影され、奥行きは減退し、色彩は欠如し、対象はフレームに囲まれ、時間的・空間的連続性もないからだ。アルンハイムによれば、映画という媒体に固有のこうした諸特性を理解した上で、それらを創造的に活用することによってこそ、映画ははじめて芸術たりうるのである。こうした立場から、彼はトーキー映画のリアリズム的な傾向にはきわめて否定的で、その点で現実の再現という特性を重視するトーキー以降の理論家(例えばアンドレ・バザン)の立論とは鋭く対立している。なお、著者のアルンハイムは、ヴァイマール期のドイツでゲシュタルト心理学を学んだ後、新聞や雑誌で映画、心理学、文学、芸術を縦横無尽に論じ、ナチスから逃れたイタリアで国際教育映画研究所に勤めながら映画やラジオやTVといった諸メディアについて研究し、第二次世界大戦の勃発とともにアメリカ合衆国に亡命してからはアカデミズムの世界で芸術心理学の分野を開拓した。
補足情報
参考文献
『芸術としての映画』,ルドルフ・アルンハイム(佐々木能理男訳),往来社,1933
『芸術としての映画』,ルドルフ・アルンハイム(志賀信夫訳),みすず書房,1960
『美術と視覚』上・下,ルドルフ・アルンハイム(波多野完治、関計夫訳),美術出版社,1964
『芸術心理学のために』,ルドルフ・アルンハイム(上昭二訳),ダヴィッド社,1971
Arnheim for Film and Media Studies,Scott Higgins ed.,Routledge,2011