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ゲニウス・ロキ

Genius Loci
更新日
2024年03月11日

事物に付随する守護の霊という意味の「ゲニウス(Genius)」と場所・土地という意味の「ロキ(Locī)」の二つのラテン語をもととし、場所の特質を主題化するために用いられた概念。物理的な形状に由来するものだけでない、文化的・歴史的・社会的な土地の可能性を示す。日本では「土地の精霊」または「地霊」などと訳される。18世紀のイギリスの詩人であり建築を道楽としていたアレグザンダー・ポープが「バーリントン卿への書簡」(1731)という詩のなかで、庭園を設計するにあたりゲニウス・ロキの概念を用いたことにより注目されるようになる。建築史家クリスチャン・ノルベルグ=シュルツの『ゲニウス・ロキ 建築の現象学をめざして』(1980)で近代建築論の主題が空間から場所へと移行したことが述べられ、「ロマン的」「宇宙的」「古典的」視点から場所と建築の具体的な結びつきの事例を考察した。また考察の基礎としてマルティン・ハイデガー後期の試論『建てる 住まう 考える』(1951)などの建てることや住まうことと場所との哲学的な関係を重要視した。ゲニウス・ロキは、普遍的な近代建築に対する地域主義やヴァナキュラー建築、ポストモダンの再評価とも連動する。日本では、イギリスの建築史を専門とする鈴木博之が、建築における場所性を重要視して、ゲニウス・ロキの概念を広めた。その著作『東京の[地霊]』(1990)では、土地固有の物語をつむぎながら東京の建築と都市空間の関係を読み解く。現在も続く都市計画学的な視点からではなく、土地を所有していた人の歴史から考察がはじまる点が特徴である。

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参考文献

『ゲニウス・ロキ 建築の現象学をめざして』,クリスチャン・ノルベルグ=シュルツ(加藤邦男、田崎祐生訳),住まいの図書館出版局,1986
『東京の[地霊]』,鈴木博之,文藝春秋,1990