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幻燈

Magic lantern
更新日
2024年03月11日

幻燈とは、江戸時代から続く写し絵(関西では錦影絵と呼ばれた)文化と、明治期に改めて西洋から渡来したマジック・ランタンが融合し、日本独自の発展を遂げたプロジェクション・メディアである。幻燈の再渡来は1874年頃、手島精一によるとされる。手島はのちに教育博物館館長となった人物であり、幻燈は教育的な効能を期待され、当時の文部省により鶴淵初蔵と中島待乳(精一)に制作が依頼された。幻燈には、手書きの下図を基にしたスライドと、写真を複製することにより制作されたスライドの二種類がある。待乳の場合、工部美術学校出身の妻・秋尾園の力を借り、手書きのスライドを制作するとともに、写真師の腕を生かし、海外向けの横浜写真風スライドの制作も数多く手がけた。日本の風俗をとらえた写真をもとに、鮮やかな彩色をほどこしたスライドは、外国人向けのお土産としても流通した。また、待乳を中心とした写真家たちによる幻燈会や、日清・日露戦争期の慈善幻燈会、子どものための教育幻燈会等、さまざまな幻燈会の開催記録も残る。明治期に勃興した幻燈ブームは、活動写真の隆盛により一時的に下火となるものの、一般の人々も簡単につくることのできる投影装置として、戦中・戦後も楽しまれていった。

補足情報

参考文献

『幻燈の世紀 映画前夜の視覚文化史』,岩本憲児,森話社,2002
『映像のアルケオロジー 視覚理論・光学メディア・映像文化』,大久保遼,青弓社,2015
『幻燈スライドの博物誌 プロジェクション・メディアの考古学』,早稲田大学坪内博士記念演劇博物館編、土屋紳一、大久保遼、遠藤みゆき編著,青弓社,2015