構造映画
- Structural Film
- 更新日
- 2024年03月11日
アメリカの映画雑誌『フィルム・カルチャー』1969年夏号に掲載された、P・アダムス・シトニーの論文によって紹介された実験映画の形式。映画を成り立たせているフィルムの特性や撮影、映写の仕組みを作品コンセプトとし、映像をコンセプチュアルに編集・構成した作品が多い。通常の映画を鑑賞する場合、観客は映写された映像を現実世界で体験する時間や空間と同じように理解するが、構造映画作品の場合、観客はスクリーン上で変化する映像そのものを経験することになる。シトニーは構造映画の特徴として、撮影時におけるカメラ位置の固定、フリッカー効果、ループされたフィルムの複製、映写した映像の再撮影、の四つを挙げたが、すべての特徴を含む作品は少ない。ここでは、シトニーによる構造映画の定義が、ある種の曖昧さを含むものであったことに注意したい。シトニーはジョージ・マチューナスの批判に対して、フルクサスの映画に見られるような、単純な形式を持った同語反復は、構造映画とは違うものであると答えている。これは、シトニーが構造映画を、単純な素材が複雑化し、全体的に形成されたものとして考えていたためである。すなわち、彼の考えではシンプルな要素が構造化される、その複雑さの程度が問題とされている。シトニーが主に挙げているのは、アメリカ・カナダの作家であり、マイケル・スノウ、ジョイス・ウィーランド、トニー・コンラッド、ホリス・フランプトン、ポール・シャリッツ、ジョージ・ランドウ(オーウェン・ランド)、アーニー・ゲール、ケン・ジェイコブスなどであるが、他にも各国で構造映画と呼べるような作品が現われており、ドイツのヴィルヘルム&ビルギット・ハインや、日本の飯村隆彦などを挙げることができる。また、イギリスではイデオロギー批判的な構造的=物質主義的映画が現われた。代表的な作品としては、ペーター・クーベルカの試みを発展させた、コンラッドの『フリッカー』(1965)とシャリッツの『T, O, U, C, H, I, N, G』(1968)や、45分間のズームアップによってその空間で生じた経験を積み上げてゆくスノウの『波長』(1967)、古い映画を映写したスクリーンを再撮影して構成したジェイコブスの『トム、トム、笛吹きの子』(1969)などがある。日本であればフィルムの時間性に着目した飯村の『一秒24コマ』(1975-78)などがある。
補足情報
参考文献
『アメリカの実験映画 〈フィルム・カルチュア〉映画論集』,アダムズ・シトニー編(石崎浩一郎訳),フィルムアート社,1972
『実験映像の歴史 映画とビデオ──規範的アヴァンギャルドから現代英国での映像実践』,A・L・リーズ(犬伏雅一ほか訳),晃洋書房,2010
参考資料
『anarchive 2: Digital Snow』,Michael Snow,Daniel Langlois Foundation and Époxy Communications,DVD-ROM,2002
『Mandala Films』(PAL盤),Paul Sharits,Re-Voir,DVD,2003
『Tom,Tom,the Piper’s son』,Ken Jacobs,セルフリリース,DVD,2008
『Joyce Wieland 1963-1986』,Joyce Wieland,CFMDC,DVD,2011
『A Hollis Frampton Odyssey』,Hollis Frampton,Criterion,BD,2012