サウンドスケープ
- Soundscape
- 更新日
- 2024年03月11日
R・M・シェーファーが提起した、個人や社会がどう知覚・理解するかに強調がおかれた音環境を指す概念。サウンドスケープ研究者の鳥越けい子によれば、1969年の『The New Soundscape(新しいサウンドスケープ)』で明確な輪郭をもったこの概念は、シェーファーが創立した「ワールド・サウンドスケープ・プロジェクト(WSP)」の活動を通じて変化していった。成立当初はJ・ケージらの実験音楽やランド・アート等の影響のもとで音環境を音楽作品として捉える発想が中心にあった。しかし実地調査を経て、音環境がそのなかで暮らす個人や社会に応じてまったく異なるかたちで知覚されることが理解されると、サウンドスケープは作品ではなく調査のフィールドと規定し直された。したがって、音環境とサウンドスケープを強いて区別すれば、前者は環境に拡がる音そのものであり、音響学の対象だが、後者は個人や社会によってさまざまに理解された音環境の姿であり、音響生態学の対象になる。サウンドスケープをめぐるシェーファーの考察のなかで、ハイファイ/ローファイなサウンドスケープの区別はとりわけ重要だろう。前者ではそこにいる者にとって意味をもつ信号音がよく聴き取れ、後者ではそれが雑音にかき消されがちである。シェーファーは西洋のサウンドスケープが産業革命以後、急速にローファイ化したと主張する。そして、この変化に対抗してサウンドスケープを改善するために、先の音響生態学や、その成果に基づいてサウンドスケープの再設計を試みる「サウンドスケープ・デザイン」の必要を訴えた。鳥越が手がけた《瀧廉太郎記念館庭園》などもその実践のひとつである。
補足情報
参考文献
『世界の調律 サウンドスケープとはなにか』,R・マリー・シェーファー(鳥越けい子ほか訳),平凡社,1986
『サウンドスケープ その思想と実践』,鳥越けい子,鹿島出版会,1997
『音の風景とはなにか サウンドスケープの社会誌』,山岸美穂、山岸健,日本放送出版協会,1999
『音の風景』,A・コルバン(小倉孝誠訳),藤原書店,1997
『平安京 音の宇宙』,中川真,平凡社,1992