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紙管

Paper Pipe
更新日
2024年03月11日

従来、コンクリートの型枠やスリーブ(中空筒)として使用される紙管を、建築の構造材として使用した坂茂の一連の建築は、恒久的な建築物から仮設建築まで、数多く実現している。1986年に東京・六本木のアクシスギャラリーで開催されたアルヴァ・アアルトの家具展で会場構成を担当した坂は、短期間の展覧会において、木の代替品でアアルトの雰囲気に合う材料として紙管に注目した。この展覧会では、紙管を使用して屋内における間仕切りを作るにとどまったが、これにより紙管の強度に目をつけた坂は、その後、建築物の構造体として使用できる紙管の開発を始める。91年には構造体として紙管を使用した初めての恒久的な建築《詩人の書庫》を完成させる。紙管を主体構造に使用した建築物はそれまでに前例がなく、この時点では木造建築物で確認申請をとっていたが、その後、構造家の松井源吾、手塚升らと共同で実験を進め、94年に正式に紙管建築としての認定をとり、確認申請を通した《MDSギャラリー》が完成する。国外においても、ハノーバー万博2000の《日本館》で、構造家フライ・オットー、Buro Happold社らの協力でドイツの建築基準の元でも紙管建築を実現させている。また、紙管の安価で軽く、世界中どこでも手に入りやすいという特性を活かし、災害地域における仮設建築物に紙管を使用する例も多く、1994年のルワンダ内戦のための《難民シェルター》以降、インド、スリランカ、中国、トルコや、日本国内で起きた阪神淡路大震災や東日本大震災でも、仮設住宅や避難施設のためのパーティションなどを数多く実現させている。

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参考文献

『Voluntary Architects’ Network 建築をつくる。人をつくる。 ルワンダからハイチへ』,坂茂、慶應義塾大学SFC坂茂研究室,INAX出版,2010
Shigeru Ban: Complete Works 1985-2010,Philip Jodidio ed.,Taschen,2010
Shigeru Ban: Paper in Architecture,Riichi Miyake,Ian Luna,Lauren A. Gould ed.,Rizzoli,2009
『木材学会誌』44巻・5号,「紙管の建築構造材への適用(第1報) 紙管の機械的性質および含水率の影響」,手塚升ほか,日本木材学会,1998
『新建築』2008年12月号,「四川大地震復興プロジェクト 成都市華林小学紙管仮設校舎」,新建築社