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視聴覚連祷

Audiovisual Litany
更新日
2024年03月11日

ジョナサン・スターンが『The Audible Past: Cultural Origins of Sound Reproduction(聞こえてくる過去)』において提唱した、聴覚文化理論でしばしば言及される聴覚と視覚の対比を並べたリスト。例えば、聴覚は時間的だが視覚は空間的である、聴覚は感情的だが視覚は知的である、聴覚は主体を世界に巻きこむが視覚は主体を世界から切りはなす、といった対比が並んでいる。こうした対比はトロント学派のマーシャル・マクルーハン、ウォルター・オング、エリック・ハヴロック、さらにジャック・アタリやドナルド・ロウ、バリー・トゥルアクスらの、聴覚と文化の関係を論じた著作に広く認められる。スターンによれば、そのなかでももっとも総合的な記述を行なったオングにとって、こうした聴覚と視覚の対比はキリスト教神学における声の重視にもとづいている。そのため、スターンはこのリストを「連祷(litany)」と名づけたのだ。さらに、声の力は文字と印刷によって一度は失われたが、電子メディアによって復活するというオングの歴史観を、スターンは現代の至福千年説とみなす。このような背景をもつ視聴覚連祷は客観的事実に反し、現在は多くの厳しい批判にさらされていると彼は主張する。一例をあげれば、フッサール現象学を論じたジャック・デリダの『声と現象』は、オングに対する批判としても読める。以上のようなスターンの主張の根底にあるのは、主体の感覚の本質をまず想定し、そこから文化や社会を理解しようとする方法に対する疑念である。

補足情報

参考文献

The Audible Past: Cultural Origins of Sound Reproduction,Jonathan Sterne,Duke University Press Books,2003
『グーテンベルクの銀河系 活字人間の形成』,マーシャル・マクルーハン(森常治訳),みすず書房,1986
『声の文化と文字の文化』,W・J・オング(桜井直文、林正寛、糟谷啓介訳),藤原書店,1991
『プラトン序説』,エリック・A・ハヴロック(村岡晋一訳),新書館,1997
『ノイズ 音楽/貨幣/雑音』,ジャック・アタリ(金塚貞文訳),みすず書房,2012
『声と現象』,ジャック・デリダ(林好雄訳),筑摩書房,2005