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ジェンダー論争

Gender Polemics
更新日
2024年03月11日

1997年から98年にかけて、「ジェンダー」の視点をもつ美術展や美術史学の方法論の有効性をめぐって、おもに美術系のミニコミ誌『LR』や『あいだ』を舞台にして交わされた論争。三田晴夫(毎日新聞[当時])や稲賀繁美(国際日本文化研究センター)、小川裕允(東京大学)からの批判に、小勝禮子(栃木県立美術館)や若桑みどり(千葉大学[当時])、千野香織(学習院大学[当時])、鈴木杜畿子(明治学院大学)が応じた。この論争の背景には、美術館においては60年代以来のフェミニズム思想/運動の蓄積にもとづいたジェンダー関連の展覧会が急増し、美術史学においては70年代以来のニュー・アート・ヒストリーの影響のもとジェンダー研究が台頭したという事実があった。じっさい、この時期には「ジェンダー 記憶の淵から」(東京都写真美術館、1996)、「デ・ジェンダリズム 回帰する身体」(世田谷美術館、1997)、「揺れる女/揺らぐイメージ フェミニズムの誕生から現代まで」(栃木県立美術館、1997)などが開催されたほか、東京国立文化財研究所ではシンポジウム「今、日本の美術史学をふりかえる」(1997年12月3-5日)で千野が「日本の美術史に言説おけるジェンダー研究の重要性」という口頭発表を行なった。三田による批判はこのような展覧会が増加した状況への、稲賀と小川による批判は千野の口頭発表への、それぞれ直接的な拒否反応だった。とはいえ、この論争によって浮き彫りになったのは、ジェンダー批判の言説が全般的に論理的な説得力に乏しいこと、そしてジェンダー批判論者たちが墨守する「美術の自律性」に男性原理がひそんでいることだった。

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参考文献

『撹乱分子@境界 アート・アクティヴィズムⅡ』,北原恵,インパクト出版会,2000
『LR』03号,「状況考(三) 借り物の思想・知・主題をめぐって」,三田晴夫,山本育夫事務所,1997
『女?日本?美?』,「美術館・美術史学の領域にみるジェンダー論争」,千野香織,慶應義塾大学出版会,1999
『イメージ&ジェンダー』vol.1,「座談会 『ジェンダー論争』を考える」,彩樹社,1999