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水平性

Horizontality
更新日
2024年03月11日

絵画的な表象空間が前提とする垂直性に対するオルタナティヴな批評概念として、批評家ロザリンド・E・クラウスが提起した用語。『アヴァンギャルドのオリジナリティと他のモダニズムの神話』(1985、邦題=『オリジナリティと反復』)で本格的に展開された。クラウスはJ・ポロックのポード絵画とA・ジャコメッティの1930年代の水平彫刻を検討し、前者においてはキャンヴァスを立てるのではなく床に拡げ、地面と平行する水平の面に絵具を降り注ぐ制作スタイルが、後者においては特に《ノー・モア・プレイ》(1933)のゲームボード、すなわち台、地面、大地の水平性とプリミティヴィズムとの同居が、思想家バタイユの展開した「低さ=低俗さ」と結びつけられる。クラウスは、ポロックの《五尋の底》(1947)の画面に放り込まれたタバコの吸い殻、釘、画鋲などから、ポロック絵画の視覚的現前性を肯定的に捉えるモダニズム批評が抑圧してきた絵画の即物的な次元を検討し、重力に抗うことのないポロックの水平的な絵画面の導入は、後続するR・モリス、R・セラ、C・トォンブリー、A・ウォーホルらの作品でより顕著な操作対象となったと論じた。なお、クラウスの議論に先行する文献としては、人間主義的な直立性=対面性が保証するルネサンス以降の光学的表象や意味論的構造からの転覆を、R・ラウシェンバーグの平台型絵画平面(the flatbed picture plane)に見出したL・スタインバーグのテキスト「他の批評基準」(1972)がある。

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参考文献

『オリジナリティと反復 ロザリンド・クラウス美術評論集』,ロザリンド・E・クラウス(小西信之訳),リブロポート,1994
『美術手帖』1997年1-3号,「他の批評基準」,レオ・スタインバーグ(林卓行訳),美術出版社