スーパーリアリズム
- Superrealism
- 更新日
- 2024年03月11日
1960年代中頃からアメリカを中心に現われた、主に写真をもとにしてエアブラシなどでそれを徹底して写実的に描きとる絵画動向。名称はこの動向の先駆者のひとりであるマルコム・モーリーが用いたのが始まりとされるが、「ハイパーリアリズム」「フォトリアリズム」の別名で呼ばれることもある。とりわけ72年の「ドクメンタ5」でこの動向が大きく取り上げられ、注目を集めた。無表情なモデルや何ら特色のない都市風景(特に自ら合成したパンフォーカスの白々しい風景を描くリチャード・エステスに顕著)といった、感情を限りなく排した描写対象の選択、そして現実の写生ではなくカメラという機械が捉えた写真をあらためて機械的になぞる(多くは写真をプロジェクターでキャンヴァス上に投影して転写する)手法。これらの特徴において、スーパーリアリズムは現実を虚構として醒めた目で見つめるポップアートや、没個性主義を深めたミニマリズムなど同時代の動向と理念の根本を共有している。写実から離れることで絵画に観念性を求めた20世紀初頭以来の表現主義とは真逆に、極度に写実に徹することで却って観念性を強調したこの傾向のコンセプチュアルな側面を最もラディカルに見せたのがチャック・クロースであり、彼は機械印刷と同じく三原色に分解して図像を描いたり、写真をグリッドに分割したうえで色彩の組成を組み替えて描くなど、多様な手法を展開した。絵画が中心の動向だが、ドゥエイン・ハンソンやジョン・ド・アンドレアなど、人体をモデルとしてスーパーリアリズムを彫刻に適用した作家もいる。日本では金属やガラス、水、生卵などの反射を克明に写し取る上田薫が特に知られる。写実主義の徹底という技術的観点だけで見れば、80年代以降に登場した、非実在の生物像を現実的につくるパトリシア・ピッチーニや精巧な人物像を極端なスケールでつくるロン・ミュエクらもこの流れにある。だが、用語としてはあくまで60年代から70年代にかけての時代における複製概念と結びついていることを押さえておきたい。
補足情報
参考文献
「スーパーリアリズム展」カタログ,岩手県立美術館ほか,2004