図形楽譜
- Graphic Score, Graphic Notation
- 更新日
- 2024年03月11日
図表や図柄、テクスト等によって記譜された楽譜。作曲や演奏時になんらかの不確定性が介在する音楽、楽音以外の音を主とする電子音楽等で用いられることが多い。また、楽譜としての機能にさほど主眼を置かず、視覚的に洗練されたコンセプチュアルな図形楽譜もある。図形楽譜を「近代の慣習的な記譜法の領域から逸した楽譜」と極言するならば、その発端は、1914年にL・ルッソロによって作曲された騒音音楽《都市の目覚め》に遡る。五線譜上を上下する太い線の動きのみが記されたこの楽譜には音符などなく、いわば図形楽譜のプロトタイプと言えるだろう。図形楽譜が20世紀の新たな記譜法のひとつとして本格的に試みられるようになったのは、50年代に入ってからだ。J・ケージ、M・フェルドマン、E・ブラウンらニューヨーク・スクールの作曲家がこの潮流を牽引した。このような背景から、50年に作曲されたフェルドマンの《プロジェクション》シリーズを図形楽譜の最初期の例と見なすことができる。図形楽譜は二つの側面を有する。音楽のジェスチュアや方向性を描く、あるいは示唆する記譜と、演奏を指示するスクリプトとしての記譜だ。ブラウンの「開かれた形式」による楽曲は、A・カルダーのモビール彫刻が有する可塑性にインスピレーションを得ており、メタ的な意味での音の可視化が行なわれている。音のエンヴェロープを図示した電子音楽の楽譜の場合、音のジェスチュアがより直接的に視覚化されている。その都度結果が変わる不確定性の音楽においては、図形楽譜はスクリプトとして効力を持ち、イラストや詳細なテクストが記されることもある。図形楽譜それ自体をひとつのヴィジュアル・アートと見る向きもあり、2010年に出版されたテレサ・ザウアーの『Notations 21』には近年のさまざまな図形楽譜が収録されている。
補足情報
参考文献
『サウンド・アート 音楽の向こう側、耳と目の間』,アラン・リクト(木幡和枝監訳),フィルムアート社,2010
『実験音楽 ケージとその後』,マイケル・ナイマン(椎名亮輔訳),水声社,1992
『現代音楽の記譜』,エアハルト・カルコシュカ(入野義朗訳),全音楽譜出版社,1977
Notations 21,Theresa Sauer,Mark Batty Publisher,2010
Notations,John Cage,Something Else Press,1969