精神分析
- Psychoanalysis(英), Psychoanalyse(独)
- 更新日
- 2024年03月11日
人間の心理の解明を目的とする治療技法、およびそこから生まれた学問分野の総称。S・フロイトによって創始され、その後J・ラカンをはじめとする多くの哲学者・理論家・精神分析家によって今日まで途切れることなく研究が続けられている。その理論体系は(フロイトやラカンの遺産相続をめぐる党派的対立を含めて)膨大かつ複雑であり、それを整然と要約するのは困難を極める。美術の文脈において、第一に特筆すべきはフロイトの精神分析が20世紀前半のシュルレアリスムに与えた影響であろう。シュルレアリスムの中心人物であったA・ブルトンは、自動記述(オートマティスム)を考案する上でフロイトの著作から多大な影響を受けたとされている(ただし、フロイト自身はブルトンらによる解釈の正当性を否定)。第二に、戦後のフランスを中心にフロイトやラカンの理論が美術批評や作品分析に導入されたという事実も重要である。その先駆的著作としてはJ=F・リオタールの『ディスクール、フィギュール』(1971)や『欲動装置』(1973)が有名だが、この傾向は、アメリカで『オクトーバー』を創刊したR・クラウスをはじめ、60年代以降にフランス現代思想をいち早く受容した英米の理論家たちによって引き継がれることになる。第三に、近年ではラカン派の哲学者S・ジジェクや、精神科医である斎藤環が精力的に文化批評や作品分析を行なっていることも見過ごせない。例えばジジェクはA・ヒッチコックの映画作品、斎藤はH・ダーガーの美術作品などをフロイト/ラカン的な概念によって分析している。
補足情報
参考文献
『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』,アンドレ・ブルトン(巖谷國士訳),岩波文庫,1992
『言説、形象(ディスクール、フィギュール)』,ジャン=フランソワ・リオタール(合田正人監修,三浦直希訳),法政大学出版局,2011
『オリジナリティと反復』,ロザリンド・E・クラウス(小西信之訳),リブロポート,1994
『汝の症候を楽しめ ハリウッドvsラカン』,スラヴォイ・ジジェク(鈴木晶訳),青土社,2001
『戦闘美少女の精神分析』,斎藤環,ちくま文庫,2006