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『太陽の鉛筆』東松照明

Taiyo no Enpitsu, Shomei Tomatsu
更新日
2024年03月11日

1975年に『カメラ毎日』誌の別冊として出版された東松照明の写真集。基地周辺を撮影した「占領」シリーズの延長として東松は1969年にアメリカ施政権下の沖縄に渡り、「本土復帰」後は東京から住民票を移して精力的に撮影する。モノクロームからカラーへの移行期を体現する写真集で、後半部からは色鮮やかな「南島」の風景が収められている。「アメリカニゼーションを拒み続ける強靭かつ、広大な精神の領域の方にいっそう魅せられる」という東松は、宮古、八重山群島を集中的に撮影し、島々の祭祀や生活をカメラに収めた。サブタイトルに「沖縄・海と空と島と人びと・そして東南アジアへ」とあるように、後半は東南アジアへと場を転じることで、日本という枠に収まらない南方文化圏を視野に入れた展開となっている。沖縄と東南アジアの写真とがシャッフルされ、グラデーション状に繋がれている。タイトルの「太陽の鉛筆」はタルボットの世界初の写真集『自然の鉛筆』から取られており、写真の始源への回帰が示唆されている。柳田國男が『海上の道』で展開した日本人北上説や島尾敏雄の「ヤポネシア論」などの影響を受け、環太平洋における島嶼文化の基層を探る写真的実践である。

著者

補足情報

参考文献

『朱もどろの華 沖縄日記』,東松照明,三省堂,1976
『フォトネシア 眼の回帰線・沖縄』,仲里効,未来社,2009
「東松照明展 沖縄マンダラ」カタログ,浦添市美術館,2002
『太陽の鉛筆 沖縄・海と空と島と人びと・そして東南アジアへ』 ,東松照明,毎日新聞社,1975