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ダイアグラム(建築)

Diagram
更新日
2024年03月11日

建築分野におけるダイアグラムとは、建物単体の成り立ちや周辺の関係性を抽象的に図式化した表現のことを指す。空間構成、機能や構造、環境、制度との連携、使用者の振る舞い等を検討する際に使用され、精緻な統計に基づく場合もある。1990年代後半には『ANY』誌などで欧米の建築家によって理論的に捉え直され、ドゥルーズ=ガタリによるディアグラム(抽象機械)の概念を導入したピーター・アイゼンマンを筆頭に、スタン・アレン、ベン・ファン・ベルケル、ラース・スパイブルック、パトリック・シューマッハなどのデジタル派が独自の定義を行なった。その隆盛の一因には、情報化とグローバル資本主義が浸透するなか、複雑な現実の与件をふまえて建築空間を生成するための媒体が求められていたことが挙げられる。ただし、P・V・アウレリがOMAによる統計ダイアグラムの建築形態への適用に対し、現実の複雑さを単純なものに還元していると論難したように、万能のツールではないことには留意すべきだろう。一方、国内では伊東豊雄が妹島和世の作品を評する際に「ダイアグラム建築」なる呼称を用いて以降、2000年代に複数の建築家により図式的な空間が探求された。議論は少なくなったものの、近年もダイアグラムは随所で見られる。ブルーノ・ラトゥールが提唱したアクターネットワーク理論に基づく、建築とその周辺の物や人の相互作用を記述する図式的表現もそのひとつである。また、建築物が人々の記憶を代弁する叙述方法を採用したクリス・ウェアのグラフィック・ノベル『ビルディング・ストーリーズ』(2012)のように、建築以外のジャンルでも示唆に富む建築的図式が考案されている。

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参考文献

El Croquis vol.77,“Diagram Architecture”,Toyo Ito,1996
Diagram Diaries,Peter Eisenman,Universe,1999
Log no.6,“After Diagrams”,Pier Vittorio Aureli,Anyone Corporation,2005
The Diagrams of Architecture: AD Reader,Mark Garcia,Wiley,2010
『プレ・デザインの思想 建築計画実践の11箇条』,小野田泰明,TOTO出版,2013
『レム・コールハースは何を変えたのか』,「図義通りの建築」服部一晃,五十嵐太郎、南泰裕編,鹿島出版会,2014