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脱構築

Deconstruction
更新日
2024年03月11日

20世紀フランスの哲学者であるジャック・デリダ(1930-2004)の主要概念。デリダはもともと、この言葉をハイデガーの「解体」([独]Abbau, Destruktion)の訳語として用いはじめた。「脱構築deconstruction」はたんなる否定的な「破壊destruction」とは異なるため、それと区別するために日本語では当初「解体構築」という訳語が用いられることもあったが、1970年代に「脱構築」という訳語が定着した。ちなみに、この訳語は英文学者の由良君美による考案であるとされている。デリダは、初期から晩年の著作にいたるまで一貫して「脱構築」をみずからの哲学的方法とした。具体的には、古代ギリシャ発祥の西洋哲学において前提とされてきたさまざまな二項対立を疑い、その対立を成立せしめている基盤そのものを問うという方法が「脱構築」と呼ばれる。とはいえこのような定義はあくまでも一面的なものでしかなく、デリダの「脱構築」はむしろ命題的な定義を拒むようなところがある。20世紀後半の現代思想を牽引したデリダの思想は現代美術にも少なからぬ影響を及ぼし、この「脱構築」という言葉も1970年代以降のアメリカを中心に大いに流布した。造形芸術に関して言えば、特にその影響は建築の分野において顕著であり、1988年にはニューヨーク近代美術館で「脱構築主義の建築」展が開催される。デリダ自身、しばしば脱構築派と形容されるピーター・アイゼンマンとともに「コーラル・ワーク」というプロジェクトに携わったことがある。しかし注意しなければならないが、本来デリダの「脱構築」には造形(芸術)に対する特別な含意はいっさい見られない。実際、批評の用語として「脱構築」という言葉が用いられる際に、上記のようなデリダの議論が厳密な意味で踏襲されているケースは稀であり、そのほとんどはある概念や物事の見方に対する異議申し立てや問い直しといった程度の意味で用いられている。

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参考文献

『存在と時間(上・中・下)』,マルティン・ハイデガー(桑木務訳),岩波文庫,1960
『エクリチュールと差異(上・下)』,ジャック・デリダ(若桑毅ほか訳),法政大学出版局,1977