「なぜ、これがアートなの?」
- “Is This Art?: A Guide for the Bewildered”
- 更新日
- 2024年03月11日
1998年に出版されたアメリア・アレナスの著作名、もしくはその出版を機に水戸芸術館現代美術センター、川村記念美術館、豊田市美術館の3館が同年に企画した展覧会名。書籍は、1984年から96年までニューヨーク近代美術館(MoMA)において美術館教育プログラムの専門家として活動していたアレナスが、日本の美術館に所蔵されている現代美術作品を中心的な題材として日本人の読者向けに書き下ろしたもの。英題のサブタイトルが指す通り、いわゆる現代美術(「アート」)に「当惑している」、あるいは不信感を持つ人々に語りかけ、徐々にそれをほぐしていくという体裁で書かれる本書の内容は、ゆるやかに美術史をなぞりながら、形式、手法、社会的文脈といった作品の要素に着目して作品同士をさまざまにリンクさせつつ展開していく。アレナスは近代以降の美術を、解釈を鑑賞者に委ねた「開かれた作品」であるとし、「作品にとって重要なのは、作者の意図がいかに表現されているのではなく、結果的にどれほど鑑賞者の意図を引き出せるかということ」であると述べる。その上で鑑賞者の素直な反応を積極視するとともに、各々が「自分の目で」見て楽しむ姿勢の必要性を提言した。展覧会もこれにならい、美術史を意識することなく色、素材、テーマなどで作品を分類し、視覚に限らない体験を促す作品を取り入れたり、キャプションをはじめとして文字情報をそぎ落とすなどの工夫が凝らされた。鑑賞教育における「解説」的態度の批判でもあったこれらの趣旨は美術館の教育普及や学校教育関係者に好評を博し、とりわけ具体的な鑑賞教育方法としての「対話型鑑賞」が広まる契機となった。
補足情報
参考文献
『なぜ、これがアートなの?』,アメリア・アレナス(川村記念美術館監修、福のり子訳 ),淡交社,1998
「なぜ、これがアートなの?」展カタログ,水戸芸術館現代美術センター,1998