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『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』Chim↑Pom

Why Can’t We Make the Sky of Hiroshima “PIKA!”?, Chim↑Pom
更新日
2024年03月11日

2009年3月に出版された本。6人組のアーティスト集団Chim↑Pomが08年10月、広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」と書き、地元新聞の報道を発端としてインターネット上での「炎上」や被爆者、美術関係者のあいだでさまざまな議論を巻き起こした一連の騒動について考えを深めるためChim↑Pom自身によって編纂された。問題となったパフォーマンスはもともと広島市現代美術館において開催予定であった個展に出展する映像作品の制作過程でゲリラ的に行なわれたものだったが、騒動は被爆者団体への謝罪に発展し、個展は自粛を余儀なくされた。本書では会田誠、椹木野衣、宇川直宏、針生一郎などさまざまな論者が一連の騒動を多角的に検証し、被爆者との対話も試みられているが、収録された20以上の寄稿やインタビューのなかに広島市現代美術館からの見解はない。「ピカッ」は第二次世界大戦において日本降伏の直接の契機となった広島および長崎に投下された原子爆弾の俗称である「ピカドン」を想起させる言葉であり、戦後においても『はだしのゲン』などの漫画におけるオノマトペの表現を通じて原爆をイメージさせる言葉として流布してきた。原子爆弾を実際の光ではなく戦後の漫画文化を取り入れながらカジュアルに表現してみせたChim↑Pomの手法は、被爆者をはじめとした市民への配慮を欠いた不謹慎な「落書き」として強い批判を招いた反面、「ヒロシマ」と「平和」を安易に結びつける現代日本の原爆問題への無関心に一石を投じたともいえる。被爆者団体のなかにはChim↑Pomの行為を激励する声もあり、彼らを批判し炎上を起こした原爆の非当事者である若い世代との意識の違いも浮かび上がってくる。
《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009)は映像作品として同書発売と同時に「広島!」展(Vacant、東京、2009)で初披露された。

補足情報

参考文献

『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』,Chim↑Pom+阿部謙一編,河出書房新社,2009
『Chim↑Pom チンポム作品集』,Chim↑Pom,河出書房新社,2010
『芸術実行犯』,Chim↑Pom,朝日出版社,2012
『Chim↑Pom 2005-2019 We Don’t Know God』,Chim↑Pom,ユナイテッドヴァガボンズ,2019
『美術手帖』2009年6月号,「平和への思考という衝撃」,川崎昌平,美術出版社,2009
『〈原爆〉を読む文化事典』,川口隆行編著,青弓社,2017
『はだしのゲン(コミック版)』(全10巻),中沢啓治,汐文社,1993