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名取・東松論争

Natori-Tomatsu Dispute
更新日
2024年03月11日

1960年に名取洋之助(1910-62)と東松照明(1930-2012)とのあいだで交わされた論争。名取は『アサヒカメラ』60年10月号に「新しい写真の誕生」というエッセイを寄稿し、東松らの世代の写真家に対する批判を企てる。報道写真を写真の本義とする名取の主張は、これら「新しい写真」が、撮影する主題は社会的なテーマを扱っている場合であっても、その映像表現のスタイルとしては、ダダの影響を受けた30年代のヨーロッパの商業写真やモード写真に似ているとし、その退行ぶりを批判するものであった。一方東松は、同誌11月号の「私は名取氏に反論する」で、名取の考えるような報道写真観を批判し、旧態依然としたドキュメンタリー写真のあり方を破壊することを主張した。組写真によってストーリーを語らせるという、戦中から引き続く名取流の報道写真から、東松を含むVIVOの世代のパーソナル・ドキュメント的な方法への転換を標づける論争であったと言える。

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参考文献

『戦後写真史ノート 写真は何を表現してきたか』,飯沢耕太郎,岩波現代文庫,2008