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「日常性への下降」宮川淳

“Descent to the everyday”, Atsushi Miyagawa
更新日
2024年03月11日

『美術手帖』1964年4月号掲載の宮川淳による小論「反芸術 その日常性への下降」、またはそこで示された反芸術の規定。同年1月の公開討論会「“反芸術”是か非か」を踏まえて宮川は、「反芸術」という言葉をめぐる水掛け論が繰り広げられている状況から「様式的な具体性にひき戻」して考えることを提案。宮川は自らの論文「アンフォルメル以降」の主張を下敷きに、アンフォルメルとアクションペインティングによって表現過程の自立と自己目的化が生じ、客観的なリアリティなる古典的概念や「自己表現」がもはや無効となった状況を反芸術は必然として受け入れているとし、日常的な事物の利用(「卑俗な日常性への下降」)にその具体的な現われを見た。これによって反芸術は「『反』芸術」──芸術の単なる否定、安直な反抗、「ロカビリー的喧噪」(河北倫明)──ではなく、「まぎれもない現代の表現」であると宮川は評価する。この論考の部分的な批判に東野芳明が反論して『美術手帖』を主な舞台に4カ月にわたる論争が起こったが、「日常性への下降」という発言はむしろ反芸術の命名者たる東野の意図を汲み、補強しようとするものだった。反芸術に対する同時代における最も明快な解釈であるとともに、ポップアートなど海外動向のみならず後のもの派にまで接続する観点を導入した重要な論考である。

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補足情報

参考文献

『美術史とその言説』,宮川淳,水声社,2002
『美術批評と戦後美術』,美術評論家連盟 (編),ブリュッケ,2007