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ニュータイプ・ゲリラ・アート

New Type of Guerrilla Art
更新日
2024年03月11日

しばしば社会的・政治的な主義主張に基づき公共空間において無許可かつ匿名で行なわれる表現行為=ゲリラ・アートの近年の動向を指す。そのターム自体が特に流通しているわけではなく、従来のゲリラ・アートとの相違も十分に整理されているとはいえないが、今日的とされるゲリラ・アートが指示対象となる。グラフィティ一般を意味する場合も多いが、アーティスト名を伴う現代美術の文脈ではグラフィティ以外の作品も含むバンクシーのアートが引き合いに出されることが多い。例えば2005年に大英博物館やMoMAに自分の作品を無許可で設置した行為や、同年および07年にパレスチナのアパルトヘイト・ウォールに描いた「風船で空を飛ぶ少女」や「壁をこえる長い梯子」など、「詩的」「童話的」「ファンタジック」と形容されるグラフィティがそうである。それらは、T・ネグリの芸術論で示されるような「新たな存在や新たな意味を構築する集団的アクション」「存在の構築論理のなかに新たな言葉を定着させる解放的出来事」といった今日のグローバル資本主義時代にあるべきアートの姿と親和性を持つという点で評価されている。そのほか、日本のChim↑Pomが11年5月に渋谷駅構内に設置された岡本太郎の《明日の神話》に福島第一原発爆発の絵を描き足した行為、あるいはロシアのゲリラ・アーティスト集団ボイナが2010年に子どものボールを拾うという設定で駐車中の無人パトカーをひっくり返すというアクション(その行為によりメンバーが逮捕された後、バンクシーが作品の売り上げの一部をボイナに寄付したというエピソードもある)なども、新しいタイプのゲリラ・アートとして捉えられることもある。以上のゲリラ・アートの共通項として、ストリート性やヴァンダリズム(破壊行為)などが指摘できるが、従来と決定的に異なる点にネットなどによる迅速な情報拡散が挙げられる。

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補足情報

参考文献

『芸術とマルチチュード』,トニ・ネグリ(廣瀬純ほか訳),月曜社,2007
『ユリイカ』2011年8月号,特集=バンクシーとは誰か?,青土社