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発注芸術

Order Art
更新日
2024年03月11日

作品における作家介入の重点を構想に置き、実際の製作は業者などに依頼して作られるアート。モホイ=ナジが看板業者に電話で指示を与えて制作した「電話絵画」(1922)に起源を置く説もあるが、一般には1960年代後半に始まる動向を指す。国際的には、66年4月から6月にかけてニューヨークのユダヤ博物館で開催された「プライマリー・ストラクチャーズ:アメリカとイギリスの若手彫刻家たち」展におけるミニマル・アートの特徴として注目された。その最も代表的な作家の一人であるD・ジャッドは、「彫刻」の現前性を重視し、個人を想起させる手仕事という芸術の伝統的価値を排除するために工場への発注という手段を選んだ。日本においては、このニューヨークの展覧会を訪れた東野芳明の企画により同年9月から10月にかけて南画廊で開催された「色彩と空間」展が発注芸術の契機として位置づけられている。参加作家はS・フランシス、磯崎新、三木富雄、山口勝弘ら8名で、画家・建築家・陶芸家も含まれていたが、すべて彫刻作品であり、各自の設計図やスケッチをもとに依頼された第三者の手により作られた。そこでの主旨は、美術の存在意義としての個人の原作一点主義に対する問いであった。また、その直後に銀座松屋で開催された「空間から環境へ」展も発注芸術の傾向が見られた展覧会として記憶されている。その経緯から、発注芸術はミニマル・アート、環境芸術、あるいはコンセプチュアル・アートとの親和性が高いが、「ファクトリー」で制作分業を行なったA・ウォーホルのスタイルなどを含める場合もある。しかし、その流れにある発注芸術については、バンクシー監督作品『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』(2010)に揶揄する場面があるなど、第三者の手を通す必然性のない作品にまで制作手段として消費された側面もある。

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補足情報

参考文献

「ミニマル・マキシマル」展カタログ,千葉市美術館・京都国立近代美術館・福岡市美術館,2001