反演劇性
- Anti-Theatricality
- 更新日
- 2024年03月11日
批評家・美術史家マイケル・フリードが提示した批評概念。1967年に執筆された「芸術と客体性」で、フリードは、ミニマリズムの芸術を批判する目的で「演劇性」という概念を提示した。「反演劇性」とは、このテキストにおいて、「演劇性」の打破を目的とするモダニズム芸術の本質的な価値として登場するものである。ただし、フリードが「反演劇性」を本格的に取り上げるようになるのは、20世紀の美術を論じた美術批評ではなく、18世紀フランス絵画をそれと同時代のD・ディドロのテキストを通して考察した『没入と演劇性』(1980)、つまり美術史のフィールドにおいてであった。この研究でフリードは、これ見よがしに自らの姿態を観者に見せつける「演劇的」な絵画の克服に向けられる「反演劇的」な絵画的系譜を追究している。これらの「反演劇的」な絵画では、描かれた人々はその画面のなかで何かに没頭し、観者の存在が画中の人物によって意識されることはない。とはいえフリードは、この「演劇的/反演劇的」の対照関係はなんら確定的なものではなく、状況に応じて転回し変節するものであると断っている。後期ウィトゲンシュタインの影響から作品の置かれた歴史的文脈を重視するフリードは、C・グリーンバーグ流の本質主義を退け、演劇性と反演劇性の耐えざる係争のなかに近代絵画史を位置づけ直そうとするのである。2000年代に入りフリードは、現代美術や現代写真の本格的な批評的検証にも着手し、それらの作品にも繰り返し「反演劇」的伝統を見出している。
補足情報
参考文献
『批評空間臨時増刊号 モダニズムのハード・コア』,「芸術と客体性」,マイケル・フリード(川田都樹子、藤枝晃雄訳),太田出版,1995
Absorption and Theatricality: Painting and Beholder in the Age of Diderot,Michael Fried,University of California Press,1980