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バラック装飾社

Barakku Soshoku Sha
更新日
2024年03月11日

関東大震災発生直後の1923年9月に、今和次郎が美術学校の後輩や若手の芸術家とともに、「バラックを美しくするための仕事一切」を引き受けるべく結成した運動体である。住宅や商店などのバラックのファサードにペンキで絵を描くなどの活動を展開した。代表作である銀座の《カフェ・キリン》(1923)では、壁面に怪獣のように口を開けたキリンを激しいタッチで描き、また神田の《東条書店》(1923)では、「野蛮人の装飾をダダイズムでやる」として、動物のようなものと渦巻き紋様を描いた。その後、復興が進みバラックの建設が少なくなって翌年6月にバラック装飾社が自然消滅するまでのあいだに、10軒近くの物件を手がけている。こうしたバラック装飾社の活動に対して、分離派建築会のメンバーより芸術至上主義的な立場から厳しい批判が寄せられた。それに対し、分離派が主張する芸術家の魂の発露としての美とは別に、今は、自身がバラック装飾社の活動を続けるなかで発見した世相風俗の表層的な部分にこそ宿る美の存在を主張した。今の主張の意図は当時ほとんど理解されることはなかったが、建築史家・建築家の藤森照信は「モダンデザイン終了後のポストモダンの傾向の一つにほかならない」としてその先駆性を高く評価している。

補足情報

参考文献

『建築新潮』5巻20号,「装飾芸術の解明」,今和次郎,洪洋社,1924
『建築20世紀PART1』,「関東大震災」,藤森照信,新建築社,1991
『日本の近代建築(下)』,藤森照信,岩波新書,1993
『「建築外」の思考 今和次郎論』,黒石いずみ,ドメス出版,2000
『グラフィカ』No.3,今和次郎の写真帖/震災バラック,グラフィカ編集室,2009