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フィールドワーク

Field Work
更新日
2024年03月11日

特定の視点から物事を観察し、現地での経験を記述する行為。フィールドワークの起源は民族学の調査にある。人類学者ブロニスワフ・マリノフスキーは、1915年からニューギニア島の原住民とともに生活をし、詳細な野外調査を行なった。参与観察により密着度の高い記録がなされた反面、対象が特殊すぎたため分析法を見出せなかった。これに活路を見出したのがレヴィ=ストロースである。彼の構造主義はマリノフスキーの成果を昇華し、新たな知見を拓いた。同時並行的に、シカゴを対象に都市調査を行なう都市社会学が興る。シカゴ学派と呼ばれる彼らの活動により、都市がフィールドとして認識され始めた。遠隔地を対象とするフィールドワークは、大規模な集落調査によって限界を迎え、現在では都市を対象にした活動が主流である。2001年に出版された『メイド・イン・トーキョー』は、東京で見つけたダメ建築を塚本由晴や貝島桃代らがカタログ化したものである。写真とアクソメによる統一した記述法は他者の追随を許し、経験という特殊な出来事を共有可能なかたちにした。スケッチや写真、ダイアグラムなどさまざまな記述方法のなかから適切なノーテーションを用い、新たな解釈を生み出した好例である。フィールドワークは従来の学問を見直すきっかけを与える。建築分野においては、バーナード・ルドフスキーの『建築家なしの建築』、今和次郎の「考現学」、赤瀬川原平、藤森照信らによる「路上観察学」などが、学の領域を再考させ、その後も省みられる成果として挙げられる。

補足情報

参考文献

『都市/建築フィールドワーク』(10+1 Series),田島則行、久野紀光、納村信之監修,INAX出版,2002
『フィールドワーク 書を持って街へ出よう』,佐藤郁哉,新曜社,1992
『メイド・イン・トーキョー』,貝島桃代、黒田潤三、塚本由晴,鹿島出版会,2001
『建築家なしの建築』,バーナード・ルドルフスキー,鹿島出版会,1984
『考現学入門』,今和次郎,筑摩書房,1987