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マルティプル

Multiple
更新日
2024年03月11日

もとは「多数の」「多角的な」「複合的な」といった意味の形容詞、または「倍数」を意味する名詞。作品を量産すること、およびその作品を指す。同一の作品が複数生まれるという意味では版画や型取りによる鋳造も含み得るが、商品的価値保証のため、あるいは版の摩耗などの技術的理由による品質維持のために数量が限定されるそれらと異なり、特に限定数を決めることなく工業的に量産された作品をマルティプルと呼ぶ。後年になって希少価値が備わる場合はさておき、基本的に安価となるため作品を(「複製」ではなく「オリジナル」として)非常に広く流通させることができる。1955年頃、J・ティンゲリーとY・アガムがこのアイディアを発案したとされる。すなわち、芸術の機械化を積極視したキネティック・アートの流れから生まれた概念である。60年代以降一般化していき、とりわけフルクサスは作品の流動性、流通力に着目してさまざまなアーティストのマルティプルの制作を試みた。マルティプルを効果的に活用したアーティストとして、フィギュアや「食玩」などの日本特有の文化商品に着目して作品を流通させた村上隆の名も挙げられるだろう。

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