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無調

Atonality
更新日
2024年03月11日

調性および機能和声に依拠しない音組織と、その作曲様式全般を指す。音楽史上では12音技法やトータル・セリエリズムの前段階として位置づけられている。リスト、ヴァーグナー、ドビュッシーなどによって、19世紀後半から調性という一種の規範がゆらぎ始めた。こうした流れを決定付けたのはシェーンベルクである。しかし、彼が意味するところの無調は単に調性を回避するための機械的な操作ではなく、不協和音をより自由に用いるための方策だった。つまり、彼はあらゆる音や和音を合目的性から解放したのである。これが調性および機能和声からの逸脱となり、結果として無調の音楽が生まれることになった。その最初期の楽曲が《弦楽四重奏曲第2番 嬰ヘ短調 Op.10》(1907-8)だ。シェーンベルクと親交のあったカンディンスキーは、ほぼ同時期に無調の革新性を自身の透視遠近法の放棄と重ね、抽象画へと進んだ。この両者の転換の歴史的符合は、当時の思潮を知るうえで非常に興味深い例である。シェーンベルクら新ウィーン楽派による「調性の超克」とでもいうべき動機とはまったく異なる次元の音楽も、無調の域に入れてもいいだろう。西洋音楽とは異なった日本音楽独自の音階を使った音楽や、電子音楽も広義の無調音楽である。のちに無調は12音技法、そしてトータル・セリエリズムへと到達し、第二次世界大戦後のアカデミックな音楽の主流となった。今日の現代音楽における創作の現場では、もはや無調が当然のこととされ、調性の有無が議論されることはほとんどない。だが、ある種のミニマル・ミュージックや新ロマン主義のように、調性を感じさせる音楽が今なお生きていることも確かだ。

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参考文献

『和声法』,A・シェーンベルク(上田昭訳),音楽之友社,1968
『音楽の様式と思想』、,A・シェーンベルク(上田昭訳),三一書房,1968
『出会い 書簡・写真・絵画・記録』,シェーンベルク、カンディンスキー(土肥美夫訳),みすず書房,1985
『新音楽の哲学』,テオドール・W・アドルノ(龍村あや子訳),音楽之友社,2007
Twelve-Tone Music in America,Joseph N. Straus,Cambridge University Press,2009