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ルポルタージュ絵画

Reportage Paintings
更新日
2024年03月11日

1950年代前半に、庶民の自由と平和にかかわる社会的事件を「事実」として描くことで、それを「報告」し「記録」することを意図した一連の絵画。文学でいうルポルタージュ(記録文学)を絵画に適応させることで、旧来の自然主義やシュルレアリスム、そして社会主義リアリズムとは異なる新しいリアリズムを目指した。代表的な作家に、池田龍雄、桂川寛、中村宏、山下菊二らがいる。ルポルタージュ絵画が生まれた背景には、50年代の政治社会をめぐる緊迫した状況があった。敗戦間もないこの時期、米ソの冷戦は極度に悪化し、朝鮮戦争の後方基地とされた日本でも、反戦平和をうたう左翼革新勢力は激しく弾圧されていた。平和と自由を求める大衆運動が盛んになるなか、画家たちは実際に反対運動や闘争の現場に赴き、その体験をもとに数々の絵画を制作することで、大衆との距離を縮める新しいリアリズムを獲得しようとした。奥多摩の小河内ダムの建設に反対するため山村工作隊として現地に潜入した桂川寛の《小河内村》(1952)や山下菊二の《あけぼの村物語》(1953)、石川県内灘の米軍による試射場建設の反対闘争をルポルタージュした池田龍雄の《網元》(1953年)、東京・立川の米軍砂川基地拡張反対闘争を描いた中村宏の《砂川五番》(1955)など、数多くの傑作が生み出された。これらは当初「記録絵画」などと呼ばれていたが、のちに「ルポルタージュ絵画」と言い換えられ、日本の戦後美術史を大きく特徴づけた。

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補足情報

参考文献

『日本のルポルタージュアート展』カタログ,板橋区立美術館,1988
『芸術アヴァンギャルドの背中』,池田龍雄,沖積社,2001
『中村宏|図画事件 1953-2007』展カタログ,東京都現代美術館編,東京新聞,2007
『廃墟の前衛 回想の戦後美術』,桂川寛,一葉社,2004
『山下菊二画集』,山下菊二画集刊行委員会編,美術出版社,1988