Artwords®

レコード

Record
更新日
2024年03月11日

19世紀後半に初めて実用化された音響記録複製テクノロジー。音の空気振動を視覚的な図形(波形)として物理的に記録し、その図形に基づいて音響を再現する機械的テクノロジー。記録された元の音を再生産するため、音響記録「再生産」テクノロジーでもある。のちにレコードと総称される音響記録複製テクノロジーは、19世紀後半に発明された――レオン・スコットのフォノトグラフ(1857)、エジソンのフォノグラフ(1877)、シャルル・クロの同様のアイデア(1877)、エミール・ベルリナーのグラモフォン(1887)。それらは音声の記録と復元と大量複製を可能とした。レコードの発明以後、音と音楽をめぐる想像力と実践は大きく変容していく。例えばレコード以降の音楽の多くは、生演奏ではなく録音を本来の存在様態とする「レコード音楽」として理解されねばならない。文学や美術との関連で言うと、レコードは(1)文学作品における音声表象の変形、(2)物質としてのレコードを用いる視覚芸術作品をもたらした。(1)の例にヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』(1886)がある。ここに登場する機械仕掛けのイヴの言葉は、エジソンのフォノグラフが発したものである。このように、何らかの霊的存在や神を前提とせずに発話する存在は、レコード以降初めて想像されるようになったのではないか。また(2)の例として、数枚のレコードを一枚のレコードとして切り貼りするミラン・ニザの《Broken Music》(1963-)や、クリスチャン・マークレーのレコードを使うサウンド・アートがある。レコードは、音や音楽をモノとして扱うことで、音楽と視覚芸術との交錯を開拓したテクノロジーだったと言えよう。

著者

補足情報

参考文献

『音響技術史 音の記録の歴史』,森芳久、君塚雅憲、亀川徹,東京藝術大学出版会,2011
『レコードの美学』,細川周平,勁草書房,1990
『音楽未来形 デジタル時代の音楽文化のゆくえ』,増田聡、谷口文和,洋泉社,2005
The Audible Past: Cultural Origins of Sound Reproduction,Jonathan Sterne,Duke University Press,2003
『未来のイヴ』,ヴィリエ・ド・リラダン(斎藤磯雄訳),東京創元社,1996

参考資料

《Broken Music》(1963-),ミラン・ニザ