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NEA(全米芸術基金)

NEA (National Endowment for the Arts)
更新日
2024年03月11日

NEA(National Endowment for the Arts、全米芸術基金)は米国連邦政府の独立機関で、1965年の設立以来、さまざまな芸術活動に助成金を提供してきた全米最大の芸術支援組織である。第二次世界大戦後の連邦議会は、ソ連との冷戦下で自国の芸術家を支援するため、国家的な芸術政策の振興を議論していた。その結果、65年の全米芸術人文学財団法が直接の契機となり、美術、舞台芸術、交響楽などの高級芸術だけでなく、民芸や芸術の普及・教育活動をも視野に入れた芸術助成団体としてNEAが設立された。NEAはマッチング・グラント(助成金の半分を他の機関から調達することを条件に助成する制度)を基本として多数の芸術家を支援し、その活動範囲は急速に拡大して、予算も92年には1億7,595万ドルに膨れ上がった。一方で、NEAの助成方針はつねに論争の的にされてきた。80年代後半には、政府が保守的な傾向を強めるなかで、NEAの支援を受けた美術館が挑発的な展覧会を企画したため、NEAの運営方針が批判にさらされた。特に89年の「ロバート・メイプルソープ パーフェクト・モーメント」展は、「性的に不道徳な作品を政府が援助している」として保守派議員の批判を受け、90年代にはNEAの予算が大幅に削減された。その後、NEAはゲイや戦争など政治的に繊細な問題を扱う芸術作品の助成に慎重になったため、リベラル派の識者は、米国の芸術の方向性はNEAの助成方針で決められると批判した。2000年代にはNEAの予算は再び増加し、2010年度で1億6,750万ドルまで回復した。特にオバマ政権下では文化政策重視の期待が高まったが、11年度は景気低迷の影響を受けて再び予算減(1億5,469万ドル)となった。

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参考文献

『現代アメリカのキーワード』,矢口祐人、吉原真里編著,中公新書,2006