S字型シルエット
- Silhouette en S(仏), S-bend Silhouette(英)
- 更新日
- 2024年03月11日
1900年前後、フランスでいわゆるベル・エポックと呼ばれる時代に流行したドレス、またそのシルエットの呼称。当時、女性たちは腿に達する丈の長いコルセットを着用していたため、自ずと体を前後に反らす姿勢を取ることとなったが、前方に突き出した豊かな胸と極端に細いウエスト、そして後方に突き出したヒップによって形づくられるシルエットが、側面から捉えた時、S字を描いているように見えることから、この名で呼ばれる。19世紀初頭に鉄製金具が導入されると、新機能を備えたコルセットが次々に発表されたが、19世紀末にその開発が頂点に達すると、女性たちの身体はそれまでになく不自然に歪められることとなった。なお、S字の流れるようなシルエットは、同じ時期、欧米諸国で流行したアール・ヌーヴォー様式が指向した有機的、曲線的な造形に重なるものでもあり、その意味では裾に向かって広がる花冠型のスカートも、時の様式が好んだ花のイメージを喚起するものといえるだろう。豪華な素材で仕立てられたドレスは、レースやフリル、リボンなどの表面装飾で埋め尽くされ、女性服は世紀転換期という華やかな時代に、この上なく人工的で装飾的なものとなった。しかし、その一方で身体の解放を求める動きも次第に高まり、1906年にポール・ポワレがコルセットを取り払ったドレスを発表すると、S字型シルエットの流行は急速に廃れ、モードはより自然な形態を求める方向へと向かった。
補足情報
参考文献
『世界服飾史』,深井晃子監修,美術出版社,1998
『ドレスの下の歴史 女性の衣装と身体の2000年』,ベアトリス・フォンタネル(吉田春美訳),原書房,2001
『アール・ヌーヴォー』,スティーヴン・エスクリット(天野知香訳),岩波書店,2004