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MORI channel|水戸芸術館現代美術センター学芸員・森司によるブログ。学芸員の日常や最新のアートニュースを伝えます。
2005.11.23

反芸術

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雲の厚い空。雨の降らない晴れの日が続き、風が吹き、空気が乾燥するシーズン。紙がカサカサ音をたてる。「火の元注意、火の用心!」。 写真をアップしてから気がついたけど、照明灯が双葉のように見える(じゃないですか)。


11月19日、僕が水戸で朝顔の蔓やロープを撤去する作業に立ち会って居た日、美術評論家・東野芳明(よしあき)氏が死去した。新聞記事の訃報欄を見る習慣のない僕は、東野さんの死亡を22日に芸術館に出勤して知った。

脳梗塞で倒れられたのが、水戸芸術館がオープンした1990年のことだったように記憶する。

「反芸術」の言葉で60年代を括った東野芳明のこの時期の死去は、間違いなく偶然でたまさかのことかもしれないが、なんだか東野さんらしいやと思わず(不謹慎とおもわれうかもしれないけど)おもった。

と言うのも、国立国際で「もの派—再考」展が開催され、都現美では「人間と物質」展の当事者である中原・峯村両氏が登壇するシンポジウムが企画され、最近ちょっとした<70年検証ブーム>にアート界はなっているなぁ(=歴史化の本格的作業が始まったとも言えるのだけど)と、僕の中では認識されていたからなんだけど、東野さんが現役バリバリの時代に話題が集まっている今を看取って安心したのかなと勝手に思ったからだ。
寂しいのが嫌いで賑やかなのが好きな東野さんだったからこそ、そんな風に思うことも許してもらえるんじゃーないかなと思う(んだ)。

国立国際の中井研究員が手掛けた「もの派—再考」は、狭義のさらに中井的に言えば、これまでの「もの派」の時期とされる1970年前後の数年を起点に逆照射することで、「もの派」が誕生したルーツ(源流)をたどるものであり、これまで「もの派」の起源とされてきた関根伸夫の作品「位相—大地」が、生み出される歴史的必然、帰結をまさに60年代の中に求めるというものである。と彼のカタログテキストを読めば、それはまさに、東野芳明がリードし基盤整備した60年代を引き受け、引き継ぐことを意味しないだろうか。

中井が学芸員としてその時代を検証したとしたら、東野の60年代を美術評論家として正面から引き受けたのが椹木野衣「日本・現代・美術」であった。

東野さんに「自分の時代は、評論家が批評も企画もなんでもやった。でもこれからの時代は、美術館の学芸員が展覧会を企画する時代だからと強くその意を説いて、水戸芸術館に職を得ようとする時に、頑張るようにと言葉をもらった。」ことを思いだす。

僕はいま「もの派」から遠く離れて、椹木野衣さんと一緒して組織した「日本ゼロ年」(1999年)に続く企画として、松井みどりさんと組んで「夏への扉」—1995年から2005年までの10年の日本の作家を括ろうとする企画。2007年春開催予定—の準備をしている。
「反芸術」や「もの派」のように、時代のアート動向を体現した言葉を準備し、歴史化すること、同時にその後に続く次の流れを見せることを目指して準備をしている。

そんなあり方(=同時代性にこだわること)で、アート界に大きな力を持ち業界をリードした東野氏の意——同時代の目迎者であり、同時代を形にする——活動のあり方を引き継ぐ者の一人でありたいと強く思う。

飾らず偉ぶらず、庶民派的ですらあった人好きな東野先生長い間、お疲れ様でした。安らかにおやすみ下さい。哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りいたします。合掌。

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東野芳明(よしあき)氏は、自分のことを「ほうめい」と言って自己紹介していたことが多かった。美術評論家である峯村敏明(としあき)氏が、ときおり自己紹介で「びんめい」と語ることがある。あれは峯村流東野芳明へのオマージュなんじゃないかと先のブログを書いて思い至った。もっとも言葉遊びの好きな人たちだから、ぜんぜん別のワケかもしれないけどね。

Posted by 森司 at 18:14 | 雑記帳

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トラックバック時刻: 2005年12月18日 23:28











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