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MORI channel|水戸芸術館現代美術センター学芸員・森司によるブログ。学芸員の日常や最新のアートニュースを伝えます。
2006.10.27

クリテリオム69

デザインがアップしてくる。テキストを翻訳にまわす。
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以下がテキストの全文
クリテリオム69 森 太三
紡ぎ出される「風景」
日常の中からイメージを抽出し、喚起力のあるものに置き換える。2006年になってから森太三は、「風景」を部屋の中に出現させる術を会得した。5月に《Sky mountains》を発表し、続く2作目が《Sea Sky》と題された本作品である。そして《Sea Sky》を造り終えた森は間を空けずして別の会場に向かい同様のやり方で3作目の制作に入った。
《Sea Sky》は、会場の床面を30分割したサイズのベニヤ板に1ヶ月半かけてパルプに凝固剤を混ぜた固めの紙粘土を起伏ある形状に造詣する下準備したものを持ち込み、養生した床にそれらを敷き詰め、継ぎ目にパルプを入れ一体化させた後にコーティングし、仕上げに青味がかった白色の樹脂塗料で着色したものである。このような明け透けな創作プロセスの開示が《Sea Sky》の視覚体験の喜びを色あせさせることはなく、目にするたびに純粋な視覚的体験として楽しむことができる。その理由は明白で集積されたパルプはもはやパルプではなく、時々に表情を変える「風景」へと変態しているからだ。
1週間の展示作業で空間はパルプを敷き詰められた作品部分と入り口部分と壁で2分され、入り口部分はさらに手前と奥に2分され、鑑賞者は奥の空間に立ち前方に広がる《SeaSky》と命名されたパルプの集積を見る仕立てになっている。仕切り壁は外光を遮り、波打つ床面の作品にきれいな陰ができるように照明をコントロールする物理的な目的のほかに、来館者が入り口をくぐり作品に出会うようにするためのものだ。この操作は作品を大きく拡がりのあるものに感じさせる役目と、鑑賞者の日常性を断ち切らせる結界の役目を担う。
鑑賞者の日常性の断ち切りとは全方位的な拡散した意識を、無自覚の内に見ることに集中する姿勢をとらせることを意味する。しかし森は《Sea Sky》の波立つ形状をモノとしてではなく、「風景」として眼差すことを求め、光を制御し均一ではない陰影で表情を際立たせる。
《Sea Sky》のタイトルが示すように、目にした鑑賞者は、さざなみ立つ海を想起し、空から見下ろした連山を想起する。どこの場所という特定感のない情景的な記述ゆえに、目に心地よいリズムの表層を視野にするうちに、鑑賞者はたやすく自己のイメージの世界に深く沈んでいく。《Sea Sky》は、風景として機能することで、鑑賞者の意識から日常性を拭いさる装置としての役割を果たす。
単純で単調な作業を集積させ、行為が表現に飛躍する瞬間を森は手を動かしながら待つ。しかし、そのような時間のすごし方は、傍から見るほどには単純で単調なものではなく、ましてや退屈な時間でもない。行為が表現に変態する時をまさに知る造形作家としての時の過ごし方を、森がなにかのきっかけで会得したことを2006年になって発表する一連の
作品が教えてくれている。森太三自身も変態し力ある作家へと脱皮した。このあと、どのような仕草で日常から日常性を拭い取り、「風景」を鮮やかに出現させる作品を手がけていくのだろう。《Sea Sky》を目にするつどに、楽しみな作家に出会えた確信を「風景」とともに味わっている。

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写真は2点とも齋藤剛の撮影。いつもお世話になっているプロカメラマンの撮影。

Posted by 森司 at 18:17 | ATM











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