Dialogue Tour 2010

第6回:MAC交流会@前島アートセンター[プレゼンテーション]

服部浩之/宮城潤2011年02月15日号

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 沖縄県那覇市の前島アートセンターで収録したダイアローグ・ツアー第六回のゲストは、青森で国際芸術センター青森に勤務する傍ら、Midori Art Center(MAC)を運営する服部浩之氏。2009年に山口から青森へ拠点を移し、青森でのMACオープンからちょうど一年が経過したいま、山口から続くこれまでの活動を振り返ってもらった。聞き手は、前島アートセンターの宮城潤氏。

山口から青森へ

服部浩之──青森で味のある旅館のようなホテルの一角を借りて、Midori Art Center(MAC)というスペースをやっています。略してMAC。ここもMAC(前島アートセンター)なので、今日は「MAC交流会」というタイトルがついています。
 東京の大学を卒業したあとに、2006年から山口県の秋吉台国際芸術村で働くことになって、山口では歳の近いYCAMのスタッフらと一軒家をシェアして住んでいました。住民の仕事柄、アートに関係する人が頻繁に遊びに来たり、泊まりに来る場所になっていって、そこの住所が〈前町〉だったことからいつのまにか「Maemachi Art Center」と名付けられて(正確にはある日帰宅したらMaemachi Art Cneterという看板がアーティストの中崎透の手によって勝手につくられていた)、そこを拠点としていろいろな活動──活動というほどのことでもなかったのですが──というか、自分たちの家をすこしだけ不特定多数に開くみたいなことをやっていました。YCAMや秋吉台にアーティストが来るとMACに呼んで飲み会をかねてトークをしてもらったりしていたら、いつのまにか本当にアートプロジェクトを主催することにもなりました。
 3年ほどそんなことを続けたあと、2009年の9月に、僕の職場が変わって青森へ引っ越すことになりました。青森でもおもしろい場所を見つけてなにかやりたいなと思っていたところ、ホテル山上という素敵な場を発見しました。ここは僕が青森に来て1カ月ほどのあいだホームステイのような感覚で滞在させてもらっていた場所です。家族経営のホテルなのですが、そのとんでもない許容力とホスピタリティのすばらしさ、そしてこれまでも国際芸術センター青森(ACAC)青森県立美術館が招へいするアーティストたちがお世話になっていて、名前を挙げたら驚かれるような作家のちょっとした作品なども寄贈されていたりして、そういう文脈も面白いと思ったので、ぜひこの場所に関わりたいと思って、自分のこれまでしてきたことや考え方を伝えて交渉したら、はなれのような一室を貸してもらえることになりました。なにかしら建築的なプロジェクトを展開する場所にしたかったので、ここをプロジェクト・スペースと呼ぶことにしました。山口を離れるちょっと前くらいから、MACという名前で青森でも活動が展開できたら楽しいのではないかと思っていたので、青森で展開する活動の名前をなんとかこじつけてMACにしようということだけは決めていて、青森の自宅の住所が偶然〈緑〉だったので、それを採用して活動の場を「Midori Art Center (MAC)」と名付けました。全然関係ないように見えるものがMACという略称を共有するだけで増殖していく感じは遊びとしても面白いなと思っています。ちなみに自宅はレジデンス・スペースということにして、実際に滞在制作などでお招きするアーティストや友人は僕の自宅をシェアハウスのように使ってもらっています。
 ホテル山上とMACのプロジェクト・スペースです[図1]。白い壁があるだけでなにもない部屋にしています。20平米くらいの小さなスペースです。ほとんど改修をしていなくて、やったことといえば奥の壁をコンパネで整えてフラットな壁にしたことと、スポット・ライトを使えるようにライティングレールを1本入れたくらいです。もとの状態をなるべくそのまま利用したいなと思っていたので、隙のない恰好つけた改修はせず、ほぼそのままの状態にしています。単純に改修するお金がなかっただけということももちろんありますが、ちょっとしたおもしろい場所が発見できれば、大資本などに頼らない小さな活動でも刺激的な展開はできるということを実践したかったし、あくまで生活を楽しむための場にしたかったので、なるべく最小限の努力で実現させました。ちなみに、青森駅から歩いて10分ぐらいのすごく便利な場所にあります。


1──Midori Art Center (MAC)外観

 ホテル山上は小さなホテルですが、経営している山上一家がアーティストなどの多様な価値観をもっている人たちにとても寛容で、彼らとのコミュニケーションを楽しんでいることに惹かれました。というのも、僕の職場でもあるACACは、アーティストが滞在制作するアーティスト・イン・レジデンスを実施している施設なのですが、ACACが街の中心部から8〜9kmとやや離れていることもあって、アーティストが夜中に青森に着くと、よく泊めてもらっていたりするホテルなんです。ほかにも青森県立美術館に来た演劇や美術の作家もお世話になることが多いようで、家族がそうした人たちとの交流をよく話題にし、勝手に楽しんでいる。そんなおもしろい宿泊施設との出会いがきっかけで、そこでなにかしたいと思ったわけです。
 今日は、テーマがあったほうがわかりやすいと思って、「遊びと建築プロジェクトとしてのMAC」としました。〈遊び〉と〈建築〉というキーワードを通じて、いま僕が青森でやっている活動がうまく伝わるかなと思って、せっかくの機会なので、きちんと説明できるかわかりませんがやってみようと思います。

運営することを目的にしない〈遊び〉

服部──まず、〈遊び〉というのは、英語だとPlayとかGameと言われますが、〈Play〉を英英辞典で調べてみると、とくに子どもが従事する楽しみやレクリエーション(activity engaged in for enjoyment and recreation, especially by children)とか、スポーツのゲームとか(the conducting of a sporting match)、演劇みたいなドラマティックワークという意味があったり(a dramatic work for the stage or to be broadcast)、機械を駆動させる余白みたいな意味(the space in or through which a mechanism can or does move)などを意味することがわかります。これを自分のやっていることに引き寄せて解釈すると、「機械を駆動させる余白」に近い意味で、一見なくてもいいものなんだけどそれがあるからこそ具体的な動きが発生したり関係を生み出したりできるもの、またはなにか演劇的に異なる役割を演じてみたり、投入してみたりすることというのが近いニュアンスだと思うんです。
 そもそも山口で最初にMaemachi Art Centerと名付けられたこと自体が完全に〈遊び〉で、特になにかをするわけではなく、遠くからゲストが来たらその人を囲んで飲み会をするような場でした。公共の施設で出会う限りは、仕事で来たアーティストはアーティスト、受け入れるスタッフはスタッフ、そしてお客さんはお客さんでしかなくて、どんな参加型のワークショップだろうとその関係は変わりません。しかしちょっと異なった状況のMACのような自宅だけど少しだけ他者に開かれた場所で、「遠くから人が来たからみんなで飲み会をしよう」という状態になると、人の関係がフラットになって皆が能動的に振る舞えるんです。人の家の飲み会は楽しむためのフラットな場所ですよね。それぞれの明確な役割を与えられた公共の場がある一方で、自分たちで自分たちの生活を楽しむ手段としてMACのような場があるのは重要だなと感じていました。だからこそ、アートセンターという場所を運営することを目的にせず、組織化して大きな目的のために動いていくこともせずに、住むための場所として家賃を払うことだけで成立する自分たちの家を周囲の人に少しだけ開くことで、そこに人が来てくれてなにか物事が進行していく状況をつくり楽しむ、そんなことを考えていました。展覧会をしようが、滞在制作をしようが、地域のためにとか、社会貢献をしようとかいう大義名分よりは、あくまで自分たちの日常生活を刺激的なものにして楽しむためにそういう場所を用意している感じですね。

人間関係の構造をつくる〈建築〉

服部──青森に来てからも、仕事とは別にアクションを起こせる場がほしいなということでホテル山上に行き着くわけですけど、僕はもともと建築の設計を勉強していて、建築はいまでもすごく好きですが、図面を描いて建物を建てることを自身の活動として継続することにそんなにリアリティを持てませんでした。むしろ、その建物や場があることによってどういうことが起きるかとか、全体の構成をどうつくっていくかというプロセスに興味がありました。たまたまアーティスト・イン・レジデンスをやっているアートセンターで働くことになって、アートプロジェクトは人間関係の構造をつくっていく仕事ともいえることを知って、その行為自体を建築ととらえたらおもしろいかもしれないと思うようになりました。そういう流れで、青森でもMACをやろうと思ったときに、また〈遊び〉とだけ言うのもどうかなと思って、青森でやっていることは関係性や構造をつくっていく建築プロジェクトとしても提示したいと思っています。
 建築という言葉をあてられている英語〈Architecture〉を英英辞典で調べると「the art or practice of designing and constructing buildings」です。直訳すると、「建物を設計し、建設する技術や実践」みたいな意味ですね。あるいは、「複合体、あるいは意識的につくられたなんらかの構造物」(the complex or carefully designed structure of something)というような意味もあって、建物を指すだけではないことがわかります。それを踏まえて〈建築〉という言葉を漢字二文字に分解して自分なりに解釈してみると、「建」は、全体のフレームや構造をつくること、そして「築」は、その構造の中で反応しうる関係を築いたり配置すること、つまりコンポジションやリレーションを形成することともいえます。自分としては、MACでやってることは、ある関係を再構築すること、人とか出来事の関係を少しずつ変化させることだととらえているので、さきほどの辞書の意味に戻ると、構成や構造ということに近いのかなと思っています。そんなことを考えながらやっています。

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服部浩之

インディペンデント・キュレーター。1978年生まれ。2006年早稲田大学大学院修了(建築学)。2009年-2016年青森公立大学国際芸術セン...

宮城潤

1972年生まれ。前島アートセンター理事、アートNPOリンク理事。沖縄県立芸術大学院修了(彫刻)。2000年「前島3丁目ストリートミュージア...