中川一政(1893-1991、文化勲章受章者)が、生涯制作において大切にしていたものに「ムーヴマン」があります。「ムーヴマン」(仏:Mouvement)は、美術用語で動きを感じさせる表現のことを言いますが、中川にとってはもう一つ大きな意味合いがあります。
 “ムーヴマンとはとりもなおさず感動の事である。その感動をどうとか生かして画面に入れよう、無理でなしに生かしたまま入れようとする。それがフォルムである。” (歌集『雨過天晴』後記、1979年 求龍堂)
 この言葉が示すように、中川にとってのムーヴマンは「感動」をも意味します。中川のムーヴマン「感動」が筆を突き動かすとき、そこにデフォルマシオン(変形、誇張)が生まれ、そのデフォルマシオンが画面全体にムーヴマン(動き)を生み出します。そして、躍動感を生かしたまま画面をまとめ上げようとしているのが、フォルム(仏:forme)「形」です。フォルムとムーヴマンのせめぎ合いが、いきいきとした画を生み出していると言えるのです。
 本展では、中川が夏に精力的に描いた「向日葵」作品を中心に紹介します。これらの作品をとおして画家の「ムーヴマン」に触れてみてはいかがでしょうか。