柏原えつとむは1941年兵庫県神戸市生まれ、多摩美術大学絵画科を1965年に卒業しました。斎藤義重ゼミに学び、1968年の中原祐介と石子順造が企画した「トリックス・アンド・ヴィジョン(盗まれた眼)」展(東京画廊・村松画廊、東京)や1973年の「サンパウロ・ビエンナーレ」に参加しました。代表的な作品に、遠近法の問題を扱った《Silencer》シリーズ(1967-68年)、小泉博夫・前川欣三と協働した《Mr. Xとは何か?》(1968-69年)、そしてマリリン・モンローの肖像をモチーフとした《方法のモンロー》(1973年)などがあります。

柏原の活動は展覧会評や絵本制作など、多岐にわたっており、主な個展に「〈私〉の解体へ 柏原えつとむの場合」(国立国際美術館、2012年)などがあります。作品は京都国立近代美術館、東京都現代美術館、国立国際美術館、高松市美術館に収蔵されています。
柏原は大学在学初期から遠近法に関心を持ち、 “逆遠近”と呼ぶ具象的傾向の作品を制作しました(1961-62年)。それらの作品において、柏原は西洋的な遠近法ではなく、日本画や東洋画の平行遠近法や上下遠近法を取り入れ、絵画特有の奥行きを模索しています。その後、モチーフを箱に限定して遠近法というテーマを掘り下げ、《Silent Box》や《To Horizon》シリーズ(1963-65年)へと発展させました。さらに、1968年の《Silencer》シリーズは、遠近法を用いて平面の画面を立体的に見せる効果によって、視覚的認識のあり方を問い直しています。《Silencer》シリーズが展示された「トリックス・アンド・ヴィジョン(盗まれた眼)」展は、「見ること」とそれに含まれる錯視性への関心という時代潮流を象徴する出来事でした。

本展では《Silent Box》、《To Horizon》、《Silencer》シリーズから代表作を展示し、柏原の1960年代の関心を総合的に明らかにします。