おおよそ100年前、先駆的なアプローチでそれまで誰も目にした事のない作品を提示し、話題を集めたマルセル・デュシャン。作品の性質や作家自身の振る舞いの特異性から、そのセンセーショナルな部分ばかりがクローズアップされる事が多いが、残された作品は現在もその輝きを放ち続け、後の作家にも多くの影響を与えている。本展は作品と共に残された様々な謎や意図について改めて考察してみようと試みるものです。

「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(通称:大ガラス)をキリスト教絵画として読み解いた絵画作品や大ガラスの中で「独身者たち」とされ描かれた図形をモチーフに作られた若江漢字によるチェスの駒などを展示。マルセル・デュシャンの版画作品や”Boîte-en-valise” (トランクの中の箱)のレプリカや資料などを合わせて展観いたします。

 デュシャンの作品は単に視覚的な驚きや表現の奇抜さを狙ったものではなく、その中には哲学的、宗教的、数学的(科学的)な要素を内包しています。その作品が持つ多層的な意味や、彼が芸術に対して提示した問いかけの深さを再確認する機会になればと考えます。