豊島区立熊谷守一美術館では、この度池袋エリア、アトリエ村跡地で制作活動を続ける美術作家・大西由莉の展覧会を開催いたします。

 私達がこの世界を認識する上で必要不可欠な「光」や「音」は、全て特定の周期性をもった「波」であることが解っています。その「波」自体には、光も音も無く、ただ感覚器官を通じて私達に世界を見せる役割を果たしています。

 「波」はまた、社会・経済上における人々の感情や情緒の伝播であったり、地震のような巨大エネルギーの伝達であったりと様々な様相を見せます。大西は絵画表現のなかで、この世界の本質的な存在ではあるが、それ自体感覚することのできない、この不可視の領域をどう表現するか長年模索してきました。

 素材を極限まで削ぎ落とし再構成した「Spielraum」シリーズや、支持体としての麻布を一度壊し麻糸で修復し再生させながら描く「起点と修復」「芍薬と空間」シリーズなどを通じ、見えない世界(不可視の領域)を見せようとする作品群により本展覧会は構成されます。

 形にならない世界、名状しがたいこの世界を熊谷守一は「無形」という書で表現しました。不可視を顕現しようとする試みは古今東西、多くの作家が試みてきたことです。そこに果敢に 挑戦する大西の作品が、思索する人々に新たなインスピレーションを与えてくれる機会となれば幸いです。

【作家略歴】
大西 由莉(おおにし・ゆり) | Yuri ONISHI
1983年生まれ。美術作家。2008年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻油絵コース修了。可視と不可視、存在(物質)と存在(物質)の間にあるモノは何かということをテーマに、支持体と絵画組成の研究をしている。既存の布を解体し再構築した作品と、麻糸で編み込むなど画布を一から制作した作品を造る。キャンバス地に空間を空けることで実際に空間上に存在し自由に往きかう原子、素粒子などの物質、光の反射などの現象を作品の中に取り込み提示する。個展に「spielraum / 遊動空間」(2018年)、「spielraum vol.02 / 遊動空間」(2020年)、「Spectral Painting」(2023年)、受賞歴に 第6回大黒屋現代アート公募展入選(2011年)、第52回神奈川県美術展入選(2016年)シェル美術賞2019入選(2019年)、第20回アートギャラリーホーム作品募集[指名コンペ部門]入選(2022年)など。



【関連イベント】※要予約 https://reserva.be/1985
①ワークショップ『とびだす!お絵描き!自分の描いた絵で3Dホログラムを作ってみよう! ~豊島区立熊谷守一美術館編~』
日時:10月26日(土)・ 27日(日) 14:00-16:00 (集合時間 13:45 )
参加費:300円
対象:年少~大人
その他:お持ちのスマートフォンをご持参ください(3Dホログラムの投影に使用します)
お絵描きと科学を合わせたプログラムとなります。
身近なものを絵に描いて、紙に描かれたものと、ホログラム効果を使って宙に浮かせた絵を実際に見て比べてみよう!お子様のレベルに合わせて、道具の使い方から教えます。お絵描きを習ったことがない方、習ってみたい方もぜひ!

②アーティストトーク
新藤 淳 氏(国立西洋美術館主任研究員)をお招きし、トークテーマ:「spectrumについて」対談をおこないます。
日時:10月26日(土) 18:00-19:00 (開場 17:45 )
参加費:無料

新藤 淳(しんふじ・あつし) | Atsushi SHINFUJI
1982年生まれ。国立西洋美術館主任研究員。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程芸術学専攻修了(西洋美術史)。共著書に『版画の写像学』(ありな書房)、『ウィーン総合芸術に宿る夢』(竹林舎)、『ドイツ・ルネサンスの挑戦』(東京美術)など。展覧会企画(共同キュレーションを含む)に「かたちは、うつる」(2009年)、「フェルディナント・ホドラー展」(2014-15年)、「No Museum, No Life?−これからの美術館事典」(2015年)、「クラーナハ展−500年後の誘惑」(2016-17年)、「山形で考える西洋美術|高岡で考える西洋美術——〈ここ〉と〈遠く〉が触れるとき」(2021年)、「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」(2024年)など。