兵庫陶芸美術館では、国内外で活躍する著名な作家を招聘し、若き作り手たちに刺激を与えるとともに、幅広い人々により深く陶芸に親しんでいただくため、2006年より「著名作家招聘事業」を実施しています。第19回となる今回は、やきものの「内と外」との関係性や、かたちが生まれる仕組み、さらにはその構造を解き明かすという強い衝動に導かれながら、陶による独立した立体造形を追求している作家・重松あゆみ氏(1958- )をお迎えします。
 兵庫県神戸市で制作している重松氏は、1977年に京都市立芸術大学工芸科に進み、陶磁器を専攻しました。大学では、戦後、前衛陶芸を牽引した走泥社の創設メンバーらの薫陶を受け、土で自由にかたちづくる、「現代陶芸」という新しい世界にのめり込んでいきます。1984年に黒陶に化粧土で彩色したユニークな作品を発表して注目を集め、時代の潮流とともに躍動する新しい陶芸表現を牽引する一人となりました。
 作風が大きく変化するのは1991年、カラフルで不思議な形態をもつ《骨の耳》シリーズが登場します。それまでスケッチから起こしていたかたちを、直接、土を手で触りながら探り出していくようになり、艶めかしい質感と鮮やかな色彩に彩られた妖艶な立体造形へと展開していきます。さらに2000年代に入ると、内側の構造をあらわにする複雑なかたちを追求するようになり、焼成温度や化粧土も見直して、現在に続く唯一無二の作風を確立していきました。
 近年、より複雑で混沌としたかたちを見せている重松氏の作品ですが、その拠り所となっているのが縄文土器です。きっかけとなったのは2008年、当館で開催した「縄文-いにしえの造形と意匠-」で見た小さな耳飾りに強く惹かれたことでした。微妙な色彩のニュアンスを纏い、いかにも現代的に見える重松氏の作品ですが、じつは低温で焼成された、いわゆる原初的なやきものでもあります。まさに時空を超えてつながるやきものの根幹とは何か。本展では、その集大成ともいうべき《Jomon》シリーズに焦点を当て、原初と未来をつなぐ重松氏の造形の本質に迫ります。