江戸時代を代表する浮世絵師である歌川広重(1797-1858)の名所絵版画の傑作《江戸名所百景》(安政4年/1857)は、幕末の江戸の名所を斬新かつ叙情的なアングルで切り取っている。いまや官庁街の霞ヶ関ではのどかに凧揚げをしており、上野の不忍池はいまも変わらぬ花見客の賑わいがみられる。広重の目を通して、現代のわれわれは、江戸のまちの様子を身近に、そして、どこか懐かしい気持ちで感じることができる。一方、おなじ広重の《京名所》(天保5年/1834頃)は、嵐山や金閣寺といった京の内外の名所を季節感ゆたかに描き出している。
 広重が京や江戸のまちを活写してから2世紀近くを経たいま、京都も東京も大きく様変わりをしている。道路も建物も乗り物も、もちろん人びとの服装や行動も変わっている。祇園社や清水寺のような社寺はともかく、品川にしても滝野川にしても、もちろん霞ヶ関にしても当時の面影は残っていないようにみえる。広重が描いた名所のなかには、もはや名前を残すだけのようなところすらある。でも、ほんとうにそうだろうか。広重の品川とわれわれの品川には、じつは底流のように通じ合う「なにか」があるのではないだろうか。それを写し取ろうとしているカメラマンがいる。
 今回の展覧会では、アメリカ人写真家ブエノ・アレックス氏が広重の描いた名所の「いま」を撮影した写真を展示して、本歌である広重作品がどのように現代によみがえっているのかをお楽しみいただきたいと思います。

◎関連企画

○ML(Museum&Library)連携シンポジウム
「レンズを通して観る浮世―広重の名所の「いま」を撮る」
日時:2024年11月23日(土)13:30~16:15(13:00開場)
会場:京都工芸繊維大学60周年記念館 1階記念ホール

講師:
ブエノ・アレックス氏(東京大学グローバル教育センター特任講師)
佐藤守弘氏(同志社大学文学部美学芸術学科教授)
並木誠士氏(本学美術工芸資料館長)

プログラム:
13:30 開始
開会挨拶・趣旨説明
並木 誠士(京都工芸繊維大学美術工芸資料館館長)
広重名所絵について

講演
1. 大判カメラを担いで広重を追いかける
ブエノ・アレックス (東京大学グローバル教育センター特任講師)
2. 歴史を並べる ―定点写真とリフォトグラフィ
佐藤 守弘 (同志社大学文学部美学芸術学科教授)

対談
ブエノ・アレックス、佐藤 守弘、並木 誠士
16:20 終了 (予定)
※シンポジウム終了後、美術工芸資料館、附属図書館の展示をご覧いただけます